紫のみなと

ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュの紫のみなとのレビュー・感想・評価

4.9
ジェーンが死んだ。ジェーンが死んでしまった。いつかはこんな日が来るとは思っていたけど、持病があるだけにそれもそう遠くはないと覚悟していたけれど、不意をつかれてしまった。

セルジュ・ゲンズブールはすでにこの世にない。そしてジェーンも死んでしまった。

大衆の愛を無尽蔵に求め、そして大衆を慈悲深く愛したジェーン。

日本の片田舎の高校生だった私が、胸かきむしるほどほど憧憬し、そして世界というものを教えて貰ったのは、オードリーでもなくバルドーでもなく、当時の日本で超アイドル的存在だったシャルロットでもなくウィノナでもなくマルソーでもなく、ジェーン・バーキンでした。

この映画は刹那を描いた映画だ。

3番目の娘の父親となるジャック・ドワイヨンの監督作「ラ・ピラート」というとんでもない映画を観た時も感じたけれど、ジェーンのような女を映画監督として所有できた男達のその後を思うと、幸福でもあり地獄でもあったでしょう。

いいとか悪いとか、演技力がどうとかではない。ジェーン・バーキンという存在。

コケティッシュで気さくなのに、メイクを施すとたちまち神々しい女神となる。あれほど美しく可憐で、あれほど見たくないものまで見せつけて、不必要に過剰であるのに、ベリーショートも分厚い前髪のロングヘアも、ギンガムチェックもベロアもファーもミニワンピもトレンチコートもコーデュロイもロングブーツも素足もブルージーンズも奇跡の様にサマになる女性。燦然とアイコニックになり得る女。

上半身を揺らしながら花畑を彷徨う姿、娘達を愛おしそうに抱く母性、半裸で男を誘うようにはんぶん開いた口元からのぞくすきっ歯、平らな胸、ゲンズブールの曲を歌う横顔。
ジェーンが大好きでした。

どうか、シャルロットが、親は必ず先に死ぬものだと言う摂理に従って、真っ暗闇の底無しの喪失から一日でも早く立ち直れますように。

そして、ジェーンが、天国で、ゲンズブールより誰より、夭逝した長女・ケイトと出会えていますように。