紫のみなと

哀れなるものたちの紫のみなとのネタバレレビュー・内容・結末

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

瞬く間の2時間21分。
リスボンの街や、海や、パリの雪が、主人公ベラのサファイアの様な青い眼で捉えた世界が、数日経ったいまでも私の網膜に蘇る。

身体は大人で頭脳は子供のベラが、性の限りを尽くし、食の限りを尽くしながら背徳の悦びには堕ちきらず次に希求したものが知識であり知性だったことが、人間は信ずるに値する生き物だと、映画がそう語っているような気がしてなんというか感謝したい気持ちになった。

世界の矛盾に泣き叫び、娼婦として金を稼いだベラが、最終的にこうしたいと望んだ生き方が、育ての父親=ゴッドと同じ医師だったこと。
自宅のオペ室に戻った時、生まれ故郷の山河をみるかのような目でベラが言った「ここが好き」というセリフ。
世界を冒険したいと飛び出したベラの選んだラストに胸がいっぱいになった。

人間には、自分が正しいと思うものを探し出し持ち続けることのできる強さがある。

過激な性描写やブラックユーモア、監督印の変なダンスもいつもの如くで、まさかこんな、勧善懲悪的な結末で終わるなんて思いもよらなかった。

そしてベラ演じるエマ・ストーンはもう、大女優になってしまった。
ベラを生きるエマのなんと美しいこと。
衣装もたまらなく良かった。エマ・ストーン、パフ・スリーブが似合うのなんのって!

普段CG満載の映画は好みでないけれど、本作で描かれる世界の終わりのような空、森、街角、色彩の全てが極上のセンス!この怪奇なストーリーにはこれしかないというような映像だった。

脇を固める男性陣もそれぞれが、役に相応しいビジュアルと完璧な演技と説得力。ウィリアム・デフォーの名演は、まるで映画界の父の様。食事中のシーンを思い出すと笑ってしまいますが…
それから特筆すべき老婦人のハンナ・シグラ。女性として完璧、こんなおばあさまになれたら。

これはものすごい映画だと興奮しながら県内に一つしかないトーホーシネマズ第8スクリーンから浮き足だって出てきた私は、久しぶりに映画を観た幸福で満たされていました。