なべ

Pearl パールのなべのレビュー・感想・評価

Pearl パール(2022年製作の映画)
2.6
 すごく退屈した。カメラや演技がいくらよくても、やっぱり話がおもしろくなきゃ。これは前作Xよりかなり劣るわ。まあわかってはいたけど。だいたい殺人鬼の前日譚で成功した例ってないよね。
 観客はハナからパールがどんな奴なのかわかってる。だから彼女がどうなるかではなく、そうなる過程をじっくり見て納得(驚きたい)したいのだ。答え合わせ編なのに観客の想定を上回れないのはつくり手の怠慢だと思う。
 まずパールの人物設定がありきたり。普段は道理をわきまえてるが、切れると躊躇なく人を殺せるっておい!フツーか! もっと段階を踏んで殺人に至る過程をイラつくくらい描けっつーの。できれば殺人に喜びを見出す猟奇性も加えてさ。でないとXのあのキチガイ老婆にとてもじゃないがつながらない。
 彼女の置かれた境遇や立場も類型的。これといった共感も湧かないし、この程度では同情もできない。とことん意外性がないのだ。答え合わせ編なのに(しつこい)。
 ドイツ系移民の厳格な母親にとって、ミュージカルで歌って踊るのは馬鹿で淫らってのが、もうありきたり。ザ・キング・オブ類型。それ思いついたら恥ずかしく思わなきゃ。母親は娘の邪悪さに気がついてて、なるだけ家から出さないように注意を怠らないって割には、夫の面倒を任せっきりってのもなんだかなあ。牛や山羊の面倒は任せても、車椅子の父親には指一本触れさせないって方が忌まわしいと思うんだけど。
 あと、前作にあったエロが皆無なのも減点対象な。父親の目の前で風呂に入るミア・ゴスがおっぱいを見せないでどうする。ブルーフィルムに見入るミア・ゴスのスカートを捲り上げてイタズラしないでどうする。彼女の本性を見せる絶好のシチュエーションなのに、てんでなまぬるいよ。
 タイ・ウェストによると、前作は悪魔のいけにえだったが今作はオズの魔法使いなんだそうだ。オズの魔法使い舐めるなよ!
 ドロシーが扉を開けた時に広がるワンダーランドは全然真似できてないよね。カカシ、ライオン、ブリキ男出てきてないよね。え、カカシに跨ってオナニーしたって? それオマージュか? それでよくオズの魔法使いってワードを出したな。おめでたい奴。
 なるほどミア・ゴスの演技は素晴らしい。でもそれに頼り過ぎてないか。
 明らかにあの長回しの告白シーンはやり過ぎだった。数多ある長回しと同様、絶対カットを割った方がいいのに、彼女のアップで押し切った愚。観客はどんどんおかしくなっていく告白者より、聞いてる人の表情を見たいのよ(少なくともぼくはそう)。同情から怪訝、警戒、狼狽、恐怖へと移りゆくミッツィーの表情にシンクロしたいのよ。てかミッツィーの見せどころなのにミア・ゴスで演出したってところが、なんだかなあ。ゼネラルプロデューサーだからゴマすってるの?と疑惑を持たれても仕方ないよね。
 ラストの延々と続くミア・ゴスの笑顔もそう。もうわかったからと何度心の中でつぶやいたことか。
 結局、タイ・ウェストは上手に撮るのが得意なだけで、おもしろい映画が撮れる監督ではなかったと認識を改めた。

 で、X(ファクター)がなんなのかって話は次回に持ち越しかよ!
なべ

なべ