なべ

TALK TO ME/トーク・トゥ・ミーのなべのレビュー・感想・評価

3.8
 本編前のクレジットでSouth Australian Filmと出るまで豪州製だと知らなくて、轢かれた動物がやけに質量があって、うわっ、めっちゃカンガルーやん!とたじろいだ。同時に、陽気なオージーもホラーをつくれるんだと妙な感心も。だって豪州映画って、マッドマックスかクロコダイルダンディくらいしか知らないもの。

 へー、悪くないじゃん。アイディアがシンプルでわかりやすい上、クスリをキメるような感じでオカルトを扱ってるところがシャレてる。恐怖のノリが軽いのだ。その割に語り口は落ち着いてて雑味が少ない。若い監督にありがちな背伸びしたようなところもなく、あれもこれもと欲張ってる感じもしない。むしろ物足りないくらいだ。
 手のオブジェの来歴に関するミステリーを盛り込むことだってできたはずなのに、そこは無理をせず、とても素直に(悪く言えば浅く)仕上げてきた。
 主人公のミアが黒人なのは昨今のポリコレムーブメントの反映なのだろうが、ディズニーみたく鼻につく感じはなかった。きっとポリコレが目的になってないからだろうな。
 だいたいティーンが出てくるホラー映画では、深刻な事態に見舞われる主人公はたいていしっかり者なんだけど、ミアは違う。かなり軽率。てかバカ。主人公の周りに軽率な奴がいる定番スタイルから、主人公自体が軽率って設定にシフトしているのがちょっと新鮮。
 いるよね、今夜はハメをはずそうぜってときに、不確定因子を無自覚に活性化させる触媒みたいな奴って。悪意も罪悪感もなく、状況をヤバい方に展開させる奴が。ミアがまさにそう。場を支配するようなリーダーシップはないのに、無思慮と迂闊さで事態を悪化させる。
 ヤバい降霊パーティにライリーを参加させるのもミアなら、憑依体験をさせるのもミア。ジェイドが強めにNoと言ってるのに、隙をついてなんかふわぁと有耶無耶にしちゃう恐ろしい女。
 けどこのミアを演じてるソフィー・ワイルドがキュートでかわいいんだわ。DQNなのにかわいいとか、うまいキャスティングするなあと。いや、ソフィーの孤立感や喪失感を伴う演技が巧みなのかな。これは逸材だと思った。
 最後のオチもたぶんそうなるだろうとは思ってたけど、見せ方が上手くて気持ちいい。物語の閉じ方が新人とは思えなくて、やるなあと感心した。
 ただ、「天才あらわる!」とのけぞるようなセンスや「うわっやられた!」って鮮烈なショックはなく、どこか見たことあるような、知ってるような風味。
 いつもの平成生まれの友人によると「小さくまとまってる」「オープニングを見て中身がどの程度かわかった」「A24制作じゃなくて配給作品はハズレ」とにべもない。
 おそらく続編が作られると思うが、そういうフランチャイズを意識したフォーマットだったのも商品としてとてもよくできてるなあと感心した。手の来歴が語られるエピソード0もきっと作られるだろうが、その頃にはこちらはもう飽きちゃってるんだろうけど。
なべ

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