great兄やん

福田村事件のgreat兄やんのレビュー・感想・評価

福田村事件(2023年製作の映画)
5.0
【一言で言うと】
「“病”は口から」

[あらすじ]
1923年、澤田智一は教師をしていた日本統治下の京城(現・ソウル)を離れ、妻の静子とともに故郷の千葉県福田村に帰ってくる。澤田は日本軍が朝鮮で犯した虐殺事件の目撃者であったが、静子にもその事実を隠していた。その年の9月1日、関東地方を大地震が襲う。多くの人びとが大混乱となり、流言飛語が飛び交う9月6日、香川から関東へやってきた沼部新助率いる行商団15名は次の地に向かうために利根川の渡し場に向かう。沼部と渡し守の小さな口論に端を発した行き違いにより、興奮した村民の集団心理に火がつき...。

刮目すべき傑作。まさに“地獄”を味わう映画であり日本人全員はこれを“義務”として観るべき作品だと私は思っている。

是枝監督の『怪物』にもあった憶測を“断定”してしまう恐ろしさを描いている事は重々分かってはいるのだが、余りにも無慈悲で残虐的な“断定”の行く末に観る者のメンタルすらも容易く蹂躙されてしまう威力というのを目の当たりにした。ある意味この後味は『炎628』を観た直後と同じ疲労感と焦燥感に苛まれる生々しさを感じましたね(・・;)...

元々ドキュメンタリー作家として知られている森達也監督が初長編作品を監督したという面でも注目を浴びている今作だが、観れば分かるように初めて作品を撮った監督だとは思えない程クオリティが高い。演出における違和感も全く無かったですし、なんと言っても日本人特有の同調圧力における“脆弱性”、そして噂やデマが波紋の如く伝播していく“恐怖”を克明にも丁寧に描写しているからか、観ていて全く退屈しないし最後まで集中力が切れない面白さが宿っていた。

それに井浦新や東出昌大などの粒揃いの演技派キャスト陣もまた今作を支える重要な“柱”として機能しており、コムアイや永山瑛太、田中麗奈の好演は勿論のこと、水道橋博士の怪演から滲み出る“邪悪さ”はまさに必見。ああいうトチ狂った思想を持ったの軍人はある意味真っ先に牢屋にブチ込むべきだと思っていますが、時代が時代故にそれが出来ないのがとても歯痒い気持ちですね😔...

とにかく“非道”という言葉すら生温く感じるほど理不尽で残酷で卑劣な事実に目を背きたくなったが、どんな理由であれ刮目しなければならない事には変わりなかったですし、歴史に埋もれていたこの事件を知れた意義というのを重々感じる一本でした。

前半から徐々に張りつめていった緊迫感が突然切れるかの如く地獄絵図と化すラスト20分の凶行は、まさに“悲惨”という言葉では済ますことが出来ないレベルの衝撃が襲ってきましたし、劇場の明かりがついてもなお暫く放心状態で動けなくなったほど。

今ではSNSなどで様々な情報がスマホの中で飛び交う時代となりましたが、100年前とはいえ情報の真偽が定かで無いまま憶測により誰かを“怪物”に仕立て上げる恐ろしさはなんら今と全くもって変わりないですし、何ならこの事件が100年間も明るみに出なかった事実にただただゾッとしてしまう。

流言飛語(デマ)は“流行り病”ではない。100年経とうが何百年経とうがそれは癌の如く社会に根付いていくものだし、自分含め誰しもが抱える癌でありそれを知らず知らずのうちに他人に容易く“転移”させてしまう恐ろしさがある。
残念ながらこれにおける“特効薬”は自分自身情報の真偽に注視するだけなのだが、今作を観ることでその意識を拡充させていく人間が増える事をただただ祈るばかりです😔...