ひろるーく

正欲のひろるーくのレビュー・感想・評価

正欲(2023年製作の映画)
4.0
生きづらさとはなんなのか。いや、例えばだけど、生きやすさなんてものがあるのか。
とはいえ、生きづらさを感じている人はみな、ほぼあらゆる周りの言葉や価値観がほぼ不快だから生きづらいわけで、生きやすいというかふつうに生きている人は皆、さほど不快に思わないという点で生きる目的を得ている。目的があれば、十分だ。

生きる目的がない、ことが生きづらさだ。

この映画(物語)は、生きづらさを感じる人々(当たり前にいる大勢の人)をピックアップしてそれぞれの生きづらさを描き問題をテーマとして提起する。

目的がある人は、結婚した、子どもが生まれた、という人生の軌道(となぜか決まっているもの)をさも当たり前に話す。無自覚に。

生きづらい人は、それがもう不快でしかない。

桐生夏月(新垣結衣)と高校時代の同級生だった佐々木佳道(磯村勇斗)は「水」に興奮を覚える。もちろん性的に。
高校時代、取り壊し予定の校舎裏の水道を傷つけ、噴水のように水浸しにする。
そのエクスタシーは、二人の共体験。忘れられるものではない。
佐々木は転校してしまい、故郷を離れる。二人は長く離ればなれだ。

夏月も佐々木も、人生の目的はない。探してはいるが、見つからない。

二人はお互いに「水を通しての恋愛感情」で、時間を超え結ばれている。
佐々木の登場シーンはコップからあふれる「水」から始まり、夏月は「水」を感じるベッドで自慰をする。

鬱屈した日々を過ごす独女の夏月。その表情。その仕草。
新垣結衣が、ここまでゴツく擦れた存在感を見せる女優だとは思わなかった。
素晴らしい。
もちろん美人なのだけど、あれ、こんなに目つき悪かったっけ? あれ、こんなに鼻高かったっけ? あれ、こんなに体格よかったっけ? と発見の連続。
新境地とか言う言葉はよく使うけれど、新しい境地に今いるのは間違いない。
このままいけば、ケイト・ブランシェットになれるかも、などと思いながら観ていた。

そして、不登校の子どもを持つ検事という職業の寺井啓喜(稲垣吾郎)。
常識(とされているもの)のど真ん中にいる彼は、子どもが不登校であることがとにかく不満であり(目的がない子どもだから)、その子どもをYouTubeという道具を得ることで目的を得らせることで満足する妻が許せない。
なぜ、学校に行かない? なぜ、友達と遊ばない? 寺井にはわからない。

「半世界」「窓辺にて」と次々に良作に出演し、ふつうすぎるからこそ感じる狂気、生真面目な言葉から感じる強烈な不安を感じる違和感。
もう稲垣吾郎もどんどんいい俳優になっている。
ファンの方には申し訳ないが、こんなにいい俳優だと思ったのはここ数年だ。本当にいい。


この映画は(朝井リョウの原作があるのだが)、書くことが難しいです。
物語を書くと、ネタバレになるし、いや、ネタがあるのかともいえばそうとも言えないし。

多様性、という言葉でなんでも解決(した気にさせる)するのは、まさに一括りだし、それこそ不理解なのだけれど、あえて言えば、理解とかそういうものを超えて、存在をそのままにする。という感じなのでしょうか。

いずれにしても、映画としては安定的に「素晴らしい」と感動できるし、ラストで一気に物語が動く「朝井リョウワールド」も気持ちいい。

多くの方におすすめできます。
でもカップルとか夫婦とか、いや、友達同士でも、映画の後、議論とかになっちゃうかも。
ひろるーく

ひろるーく