ひろるーく

首のひろるーくのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
4.5
北野映画全部入りの傑作です。
戦国時代の終わり、織田信長(加瀬亮)に仕えていた荒木村重(遠藤憲一)が謀反を起こし、失敗しながらも行方不明に。信長は村重を捕らえ「首」を持ってこいと周りに指令するところから物語が始まる。
そして命を受けた信長の側近明智光秀(ハゲ=西島秀俊)の執拗なまでの過剰なパワハラ、光秀と村重の恋愛、そして信長への恋慕などのラブストーリーが重なりながら、歴史に残る大謀反事件「本能寺の変」へと物語が流れる。

随所に現れ、謀反人村重を捕らえたところから物語の軸に登場する元忍者の芸人曽呂利新左衛門(木村祐一)、サムライに憧れ(成り上がりの秀吉に憧れ)戦に参加する茂助(中村獅童)と魅力的なキャラクターが加わる。

そして、信長、光秀、徳川家康(小林薫)からちょっと引いたところで、楽しそうに(ほんと楽しそうに)信長打倒をもくろむ羽柴秀吉(サル=ビートたけし)、側近の弟羽柴秀長(大森南朋)、知略をめぐらす軍師黒田官兵衛(浅野忠信)の三人組。

もうさ、これだけの北野映画オールスターズで、適材適所、全部魅力いっぱいの役を演じられたら、もう北野映画ファンとしては震えが止まらないのよね。
中村獅童さん以外、ほぼ北野組。

テーマは「首」なんだけど、武将がとにかく勝った証としての「首」にこだわる変態性に着目したことが見事。そのテーマがあるから、筋が通っています。変態ですよ「首」合戦なんて。

そこに戦国ものとしては超新鮮なラブストーリーが絡むわけです。
みんな何となく知っている、聞いている。
でも絶対に大河ドラマでは描かれないし、映画でもほぼほぼ出てこない戦国武将の男色物語。

北野武監督は、とにかく文献をあたって秀吉周りのストーリーを集めたといいます。
過去30年ほど、北野監督がインタビューで度々語っていた「秀吉とか光秀の話とかさ、わらっちゃう。面白いんだよね」が、すべて監督の想像によって「ほんとはこんな感じなんじゃないの?」としての物語が結実したわけです。

北野武=ビートたけしは昔から、「偉そうにしているやつも、屁はするし、へんな格好でセックスするし、ろくなもんじゃないよ。パンツにうんこついてるし」と言っています。
そうなんですよね、人間、ろくなもんじゃないんですよ、みんな笑。
だからキムタクの信長とかが逆に滑稽に見えてくる。
僕はその暴露がとにかく楽しい、というか愉快でたまりません。

北野監督が「タランティーノ的」と話していますが、その通り。
無意味(でありそう)なシーンに意味を持たせ、虚構としての映画(あえてフィルムと呼びたいくらい)に血肉を与える。
だから映画は楽しい。だから映画は素晴らしい。
僕みたいな人間(へそ曲がりなのかもですが)は、たまらなく、とにかくたまらなくこのスクリーンを観ている時間が楽しいのです。

賛否はあるでしょう。
がっかりした。こんなの戦国ものじゃない。ギャグで笑えない。そんな否定的な意見ももちろんわかります。
でも僕は楽しくてしょうがなかった。
だって、「デス・プルーフ in グラインドハウス」がまさか笑。拍手ですよ。

そんなわけで、賛否ある作品ですので、誰にでも推薦できるわけではありませんが、僕は大満足。時間を見つけて、また観たいと思いました。

あと、戦国時代のアウトレイジ的な書き方で紹介しているサイトもあるみたいですが、「アウトレイジ」とはちがうと思うんです。ちょっと誤解を与えるかもしれないので注意です。
説明すると長くなるので、書きませんけど。

あ、でも信長の加瀬亮(拍手!)は、それだ笑 すばらしい。思いだしてもワクワクする。
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