inotomo

フェイブルマンズのinotomoのレビュー・感想・評価

フェイブルマンズ(2022年製作の映画)
4.1
1950年代のアメリカ。幼いサムは、両親と初めて映画館で映画を見る。スクリーンの中の様々なもの、特に疾走する列車が忘れられないサムは、おもちゃの列車を買ってもらい、それを走らせて楽しむが、やがてそれを8ミリカメラで撮影するようになる。数年が経ち、8ミリカメラでちょっとした映画作品を撮影することに夢中になっていたサムは、家族キャンプの様子をカメラで撮影する。後日その映像を編集していると、そこには驚くようなことが映されており、サムは動揺する。監督、脚本はスティーブン・スピルバーグ。

スピルバーグの自伝的作品。どこまでがフィクションなのかはわからないけど、幼い頃から大人顔負けの映像作品を作っていたサムの様子を見ると、映画の天才はこうして作られたんだなと感じずにはいられない。家族の物語であり、1人の少年の成長記録でもあるこの作品。ユダヤ人差別や、両親の離婚など、スピルバーグ自身に大きく影響を与えたものが描かれている。

ちょっと風変わりなフェイブルマン一家を象徴するのが、仕事人間だけど優しい父親と、元ピアニストで、どこかぶっ飛んでる母親。秘密を抱える母親のミッツィを演じたミシェル・ウィリアムズが素晴らしい。優しい母でありながら、ちょっとエキセントリック。女性としての魅力や輝きも滲ませながら葛藤する演技には説得力があった。また、サムに芸術の何たるかを説く、サムの祖母の兄を演じたジャド・ハーシュも、出番は少ないながら、熱量の高い演技が素晴らしかった。彼の演技は「旅立ちの時」以来かも。両者は今年のアカデミー賞にノミネート。さらに、映画終盤の場面で、ある大物映画人に扮したデヴィッド・リンチも、印象に残った。

穏やかな語り口ではあるけれど、バラバラになる家族の行末が少しほろ苦い印象を残す。カメラワークや編集は相変わらずの職人芸。少年時代から大人になるまでの経験が、後のスピルバーグ作品にどう影響しているのか、過去のスピルバーグ作品をまた見返したくなった。
inotomo

inotomo