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聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディアのinotomoのレビュー・感想・評価

4.0
映画「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」見た。心臓血管外科医のスティーブンは、同じく医者である美しい妻アナと2人の子供とともに、誰もが羨むような家庭を築き、幸せに暮らしていた。かつて自分の患者だった男性の息子のマーティンを、何かと気にかけ世話していたスティーブンだったが、マーティンを自宅に招き入れた時から、スティーブンの家庭に不幸が訪れる。監督、脚本はヨルゴス・ランティモス。

ヨルゴス・ランティモスが手がけた不条理サスペンススリラー。「女王陛下のお気に入り」や「哀れなるものたち」みたいな、歪んだ魚眼レンズのような映像はないけど、斬新な構図のカメラワークだったり、不安感をかきたてるような音楽だったり、見るものの心をざわつかせる効果は満点。加えて、スティーブンの子供たちに降りかかる悲劇を目の当たりにし、家族それぞれが自分の保身のために態度を変えたり、スティーブン自身も医者としての馬鹿げたプライドを持ち合わせていたり、人間の持つ恐ろしさや愚かさをしっかり描いているところが、ドラマとして秀逸。ギリシャ神話で、ある英雄がアルテミスの鹿を誤って殺してしまい、自分の娘を生贄に差し出すというものがあり、この物語はそれをモチーフにしているらしいけど、とにかく脚本がよく出来ていると思った。カンヌ映画祭脚本賞を受賞も納得。

社会的地位を得ていながら、底の浅い人間っぷりをうまく演じていたコリン・ファレル、良妻賢母と見せかけて実はかなり計算高い悪女を演じたニコール・キッドマン、それぞれ良かったけど、この作品の要はなんといってもマーティンを演じたバリー・コーガンの怪演。何考えてるのかわからない不気味さ、幼なさ、物語のキーマンを見事に演じていた。「イニシェリン島の精霊」でも素晴らしかったけど、これからもきっと大活躍するはず。注目したい。

ランティモス監督の作品の味わいは、好き嫌いあるかもしれないけど、濃密な人間ドラマとして見応えあるし、私は好き。彼の他の作品もぜひ見てみたいと思う。
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