高校3年の百合は、進路に悩んでいたり、事故で父を亡くしたあと1人で家計を支えている母に対し素直になれなかったり、イラついた日々を過ごしていた。ある日、母親とケンカして家を飛び出した百合は、嵐の中古い防空壕の中に身を寄せ、疲れて眠ってしまう。目を覚ますと、なぜか百合は1945年にタイムスリップしていた。そこで百合は、特攻隊員の彰と出会う。
口コミでその面白さが伝わりロングラン。映画館でこの作品を再見することを「追い花」と呼ぶのだとか。原作は塩見夏衛の小説で、私は推しグループのメンバーが主演した映画の原作者と同じであること、また、推しグループのメンバーが出演した映画「OUT」に出演していた水上恒司くんが出ているので鑑賞。泣ける要素たっぷりで、たしかに劇場では観客の鼻をすする音があちこちで聞こえてきた。私の地元の田舎の映画館では、サービスデーでもあり平日昼間から結構たくさんの人が入っていた。いかにもな音楽と演出で、泣きを煽るお涙頂戴映画が苦手なのだけど、この作品ははそれがさりげない感じにとどまっていたように思う。
ファンタジーというジャンルではあるけど、戦争の無意味さや悲惨さを真摯に描こうとしていたのかなと思う。百合と彰の急接近に、戦時中という時代にあっただろう奥ゆかしさが若干欠けていたように思うし、突然2人が名前で呼び合うあたりも唐突に感じたが、自分に残された時間が短いと知っている彰にとって、百合と一緒に過ごす時間はすごく尊くて、あのような展開になったのかなと思う。真夏設定なのに、防空壕で叫ぶ百合の口から白い息が出ていたり、戦時中に撮られたはずの写真がえらく鮮明だったり、ややご都合主義的な展開があるのが気になったけど、飽きることなく物語に引き込まれて、最後まで楽しめた。
百合を演じたアニメ声の福原遥は可もなく不可もなくといったところ。彰役の水上恒司くんは、精悍で、二枚目で、包容力のあるキャラクターを好演。「OUT」とはまったく違うキャラで、その変身ぶりに驚いた。今後もその活躍に注目したい。彰の友人で同じ特攻隊員の石丸を演じた伊藤健太郎もなかなか良かったし、復活してくれて嬉しい。石丸に思いを寄せる千代を演じた出口夏希は、中国出身の若手。Netflixのドラマ「舞妓さんちのまかないさん」ですごく注目していたのだけど、今回も好演だった。百合が身を寄せる食堂のおかみさんを演じた松坂慶子の優しさも良かった。
わかっていても、特攻隊のみんなが飛行機で飛び立つ場面にはグッときた。その覚悟に満ちた表情の美しさ。命を捨てることに意味は見出せないけど、その精神は気高く立派だったと思う。原作も気になるので、機会があればチェックしたい。