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哀れなるものたちのinotomoのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.5
19世紀のイギリス。外科医のバクスターは、橋から実を投げ命を落とした妊婦に、お腹の中の胎児の脳を移植し蘇生させる。新たに生まれ変わった女性は、ベラと名付けられ、バクスターの屋敷で育てられる。バクスターは、弟子の一人のマックスを呼び寄せ、ベラの成長の様子を記録させる。徐々に女性として成長し、自我に目覚めていくベラ。やがてマックスと心を通わせて婚約に至るが、それがきっかけで屋敷を訪れた弁護士のダンカンと共に家を出て、冒険の旅に出かける。
監督はヨルゴス・ランティモス。

ランティモス監督作品は、「女王陛下のお気に入り」しか見てないんだけど、その年のベスト1に選んだほど楽しめた作品。この作品も「女王陛下」同様、ブラックユーモアと風刺、アイロニーに満ち、狂気もある濃密なファンタジー。魚眼レンズやのぞき穴から覗いたようなゆがんだ映像。ベラの心と体の成長のアンバランスさを象徴したような、どこか調子の外れた音楽。ベラが自我に目覚めてモノクロの映像がカラーになっていったように、それらが次第に変化していくのだけど、全てがうまく調和されて、映画として、作品としての質を高めていたように思う。R18指定で、過激な性描写も多いけど、セクシーさとか官能にはほど遠い滑稽さ。これもきっと計算なのだろうけど、グロテスクな描写も含めて、これが苦手な人には、楽しめない作品かもしれない。私はフェミニズムだったり、一人の女性の成長だったり、暗い要素の中でも、どこかしら希望の光が感じられる冒険の物語として楽しめたし、ラストの歪んだ多幸感というべき場面もすごく印象に残った。

赤ちゃんが少しずつ成長していくように、本能のままに行動していたベラが、知識を得て次第に一人の女性として立派に成長していくその様を見事に演じたエマ・ストーンがとにかく素晴らしい。彼女ありきの作品。ランティモスの次回作でもタッグを組むらしいけど、「女王陛下のお気に入り」に続きオスカーノミネート。強力なライバルがいるらしいけど、これでオスカーとれないなら、みんなとれないよねってくらいの演技。凄みを感じた。
同じくオスカーノミネートのダンカン役のマーク・ラファロ。気取ったプレイボーイだけど、小物感を醸し出すあたりが絶妙でさすがなんだけど、「死ぬまでにしたい10のこと」や「はじまりのうた」のマーク・ラファロが好きな私は、ちょっと残念。
狂気、父性愛、孤独を見事に表現していたバクスター役のウィレム・デフォーも素晴らしかった。

万人受けはしないかもしれないけど、コアな映画ファンはきっと楽しめる作品なのではないかと思う。セットや衣装、色調やオープニングとエンドクレジットなどに監督の美意識とこだわりが感じられて、それも楽しめたた。さてオスカーではどこまで活躍するのか。楽しみ。
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