てっちゃん

aftersun/アフターサンのてっちゃんのレビュー・感想・評価

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
4.5
観賞後にもずっと残り続ける作品ってありますよね。
本作に於いては、それがものすごいことになっておりまして、というか数日経ってから、数ヶ月経ってからも自分のどこかに居座り続けているのです。

本作は、とても繊細な作品でいて、触れられたくないものを直接見せてくるので、鑑賞するときのタイミングによって感じ方が変わってくるのかなと思います。

私は本作をとても疲労感があるときに鑑賞しました。
そうした中での感想です。

多くのことを語らない作品(説明過多でなく鑑賞側に考えさせる余地を与えている作品です)であるので、そこに苦手意識がある方はまた違った捉え方ができるのかもしれません。

現代を生きる主人公が、父親と子供の頃に行ったバカンスを思い出す(ホームビデオで)というものです。

子供のときの自分、そのときに見えた父親。
大人になった自分、そのときだから見える父親。
それを断片的な思い出として見せてきて、感じとらせてきます。

本作で注目して欲しいところはここです。
当時見えていなかったものが見えるようになる。
もしくは見えていたものが見えなくなる。
でもそれって当たり前のことであり、その人それぞれの人生で見えることが変わっていくのだと思います。

父親と同じ年齢(ここは記憶が曖昧)になった今、見えるものとはなにか。
当時のビデオテープの中にいる父親は、"当時の自分にとって遊び仲間"であるように感じられました。
それも父親ではありますが、そうではない部分もあります。

本作ではそうではない部分についての説明はありません。

でも、想像することができます(そもそも本作はそこに焦点を置いていないと思いますが)。
父親には当時の主人公が感じていた以外の部分がありました。
むしろその以外の部分が本当の父親であったのかもしれません。

私は父親を見て、自分と重なるものを感じました。
負の気持ちに勝るものがある現在は、”それ”を遠ざけることができていますが、負の気持ちが勝ってしまう瞬間や、勝っているのに"それ"が急に顔を出してくるときがある(本作だと主人公と楽しいバカンスを過ごしているのに夜になると負が顔を出してくるシーンにあたるなと感じた)。

そのときは不安と絶望が襲ってくるのです。
それを忘れさせようとやさしい言葉も時には聞こえてきますが、沈みきっているのでその姿や声はぼやけているような感覚になるのです。
孤独を感じるということでしょうか。

父親はそんな自分自身を治そう(という言い方は適切ではないが他に思いつかない)という想いは十分にあります。
身体はついてきている、、でも気力がないんです。ついてこないんです。

それでも娘との時間を父親なりに過ごしているのがすごく伝わってくると思います。
こんな時間がずっと続けばいいのになと思い、そこからの虚無感。
その繰り返し。

本作は決して派手ではない。
でも鑑賞後に満ち満ちていくなにかがあるかと思います。

エンディングが非常にきれいなのが印象に残りました。
主人公と父親が現在と過去とでつながった瞬間であるように感じました。

是非、”見る”を意識して、なにかを感じる体験をして、彼に寄り添って鑑賞して欲しいなと思う作品でした。
てっちゃん

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