むさじー

あしたの少女のむさじーのレビュー・感想・評価

あしたの少女(2022年製作の映画)
3.8
<若者を追い詰める社会の闇を暴く>

高校生のソヒは、卒業を前に大手通信会社の下請けのコールセンターで実習生として働き始めるが、会社は顧客の解約阻止のため過酷な競争を煽り、約束された成果給も支払わない。そんなある日、上司のチーム長が自殺し、ソヒ自身も精神的に追い詰められてやがて自死の道を選ぶ。捜査を担当した刑事ユジンは、会社の労働環境など彼女を取り巻く実態を調べ、根深い問題をはらんだ真実に迫っていく。
前半、超ブラック企業に実習生として送り込まれ、逃げることも出来ず追い込まれていく彼女らを見るのは息苦しく辛い時間だった。そして後半に入り、ユジン目線でソヒが置かれた過酷な状況、感じた無力感を追体験することになって、徐々に社会の構造的な病根が見えてくる。
ソヒの職場は、社員はわずかで多くが実習生、それも1年で実習生の大半が退職、採用という形で入れ替わり、いわば会社が新卒者を食い物にしているのが実態だった。一方、生徒を送り出す学校側には、労働条件を無視してでも就職率を上げて、国からの補助金を多く獲得しようという目論見があった。双方の板挟みで犠牲になったのがソヒたち若者で、日本ではここまで悪化した労働環境はないと思うが、あるいは知らないだけなのかも知れない。
実話ベースの社会派映画なので、エンタメ性やカタルシスを求める気はないものの、エンディングが唐突でドラマとしての着地点が欲しい気がした。だがそれがむしろ、問題提起に徹した潔さのようにも思える。何しろ本作が契機になって、徐々に世論の関心が高まり法改正の動きに繋がったというのだから。まさに映画の力である。
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