Oto

お熱いのがお好きのOtoのレビュー・感想・評価

お熱いのがお好き(1959年製作の映画)
4.1
めっちゃ面白い...。本当にビリーワイルダー好き。
こうやって後世まで人を幸せにするものが作りたいものですね。。

物語が面白くならざるを得ない設定になってる。
①無許可バー(スピークイージー)で演奏をしている二人が、禁酒法の摘発にあって失職
②逃げる間にギャングの虐殺を目撃してしまい、逃亡を図るために遠征の仕事を探す
③ガールズバンドの募集しか見つからず、女装をしてギャル演奏者だらけの汽車に乗り込む
④車内でウクレレ奏者のマリリンモンローに出会ってしまい、二人は恋をしてしまう
⑤到着したフロリダで片方が、もう一度男性の御曹司に変装して、モンローにアプローチする
コアは「変装」の面白さだけど、その前後をこんなに自然な流れで作れるのって本当にすごい。

二枚目のジョーと三枚目のジェリーのバディものとしても、冒頭からキャラがわかりやすくて、色気を武器に仕事をとってくるジョーと戯けたり巻き込まれたりして暮らしているジェリーとの対比が効いてる。

汽車の中もバカらしくてずっと笑える。
酒開けたらみんながベッドに集まってきちゃったり、シンバルを氷皿代わりに使ったり、「落語は人間の業の肯定だ」と言われるけど、いや確かにコメディというのは、いかに人が卑しくてダメな人間であるかを描写するものなんだなぁと思った。
車内での演奏シーンの音響だけ、その場で鳴っているような臨場感が感じられなくて、今ならもっとできただろうなとか、女装ももっとリアルにできたのかなとか思うけど、「なんでこれでバレないの?」っていう面白さも確かにある。

超有名なモンローの歌唱シーン、「売れない歌手」の描写にしては色気がありすぎて、ちょっと説得力がないけど、おじいちゃんがメロメロになっている面白さとかで、楽しさが途切れない。船が後ろにしか進めないとか、不感症になってしまったとか、窓の外側の柱で上り下りするとか、どのシーンにも突っ込みどころや嘘が丁寧につくられている。
船の上でのラブシーンと、地上でのダンスが、高速のパンで繋がれるクロスカッティングは爆笑した。「理不尽」の哀しさってワイルダーの作家性だと思うけど、それを受け入れて楽しくなっちゃうのも人間らしくて好き。あっさり人が死んでいくのはタランティーノに通じるコメディ性を感じた。

古さを感じないのは、男性が女性の立場に立つことで、普段相手がどういうセクハラを受けているか=自分がどういうストレスを与えているのか、を体感していくところ。21世紀にもミュージカルが作られているらしいけど、今映画化しても爆笑が起きそうなシーンがいくつもあった。「カーティスとレモンの女装がカラーで映ると非難の対象となるので、白黒にした」とのことだけど、船のシーンの照明の美しさとか、むしろ白黒の方が陰影が映えるのではないかと思ったりした。

タイトル「Some like it hot」は、「Some like it hot, some like it cold.」つまり「好みは人それぞれ」ということか。全体のテーマは最後の「完全な人はいない」だと思うけど、だからこそダメな自分を受け入れたり、ダメな誰かを好きになったりできるという面白さがある。
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