great兄やん

怪物のgreat兄やんのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
5.0
【一言で言うと】
「憶測は“真実”を嗤う」

[あらすじ]
息子を愛するシングルマザーや生徒思いの教師、元気な子供たちなどが暮らす、大きな湖のある郊外の町。どこにでもあるような子供同士のけんかが、互いの主張の食い違いから周囲を巻き込み、メディアで取り上げられる。そしてある嵐の朝、子供たちが突然姿を消してしまう...。

この世界は、みんな誰かを“怪物”にしたがるーーー。

まさに作られるべくして作られた傑作。是枝監督のシビアで優しい演出と坂元裕二の見事かつ卓越な脚本がガッチリ呼応し、そして故・坂本龍一の玲瓏なる音楽が見事に彩られた、マジで傑作へのピースを確実に揃えにきたな(゚o゚;;…という“本気度”が伺えるとんでもない映画だった。

観る前からこの三者のラインナップにハズレなんてねぇだろ…という“確定演出”的な期待を寄せていたのですが、それを意図も容易く超えるクオリティの高さよ...是枝作品初の5.0を今作に捧げられる事を非常に嬉しく思いますし、それに相応しい作品を生み出してくれた是枝監督。マジで貴方は天才です😌

とにかくストーリーの秀逸さもそうだが、それ以上に問題提起として投げかける”目線“の巧さにただただ鳥肌が立った。あまりにも生々しすぎて。
是枝監督が投げかけるメッセージってどの作品にも言えるのですが、どれも”形容しやすい“身近なものとして投げかけているんですよね。だからこそ容易く想像できるというか、物語上の人物だけの問題ではないそこの”あなた“に向けた警鐘とも取れるメッセージが深く突き刺さってきますし、尚且つ今作ではその警鐘がより一層密接した怖さを持った”不条理“として巧く描かれていましたね🤔...

それにストーリー展開の構成も変則的かつ核心に迫った見事な脚本でしたし、いわゆる『羅生門』スタイルの構成ではあるが、それ故の“真実”の暴かれ方というのも巧く登場人物の印象操作として機能していましたし、主題でもある“怪物”の側面を多角的に表した、まさにギミックに富んだ素晴らしい脚本でした。

彼の脚本って、『花束みたいな恋をした』でもそうだったんですけど、台詞の言葉選びがマジで絶妙なんですよね...今作でも何箇所か響くセリフに思わずハッとさせられましたし、多くを語らず的確な“真理“を突くワードセンスには本当に脱帽です(・・;)カンヌで脚本賞獲ったのも納得できるほどのクオリティでしたね...

とにかく己の振りかざす“正義”はいつしか誰かを都合の良い“怪物”として見なしてしまう、まさに知る由もない誰かの“真実”を“憶測”によって歪めてしまう人たちのありふれた“悪意”に心が凍てつく一本でした。

安藤サクラを筆頭とする役者陣の相変わらずと言ってもいいほどの神がかりの演技力にただただ圧倒されまくりでしたし、何よりも子役2人の演技の凄さにひたすら胸を打たれましたね...あんな難解な役どころを的確に演じ切った存在感と表現力にも天晴ですし、ただただ美しく、そして切ない表情と佇まいに思わず涙が出るくらいでした。

果たして一体誰が“怪物”なのか、そもそも“怪物”となる者は存在するのか、こういった様々な“憶測”を今作では投げかけているのですが、大事なのはその憶測を“断定”するのではなく、“推定”するということ。

憶測は、結局のところ都合の良い真実でしかない。そうならない為にも我々は常に考え、そしてその人の“物語”を知らなければならない。見ず知らずの誰かを“怪物”にしない為にも...