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KCIA 南山の部長たちのMaUのレビュー・感想・評価

KCIA 南山の部長たち(2018年製作の映画)
3.8
かつて民主化への信念で革命を起こした男たち。同じ思いを持つ同志の彼らがなぜこんなふうに道を分かつに至ったのか。史実に基づくハードでポリティカルな作品。重厚。

史実に基づくフィクション。実際に起きた1979年の朴正煕大統領殺害事件の数十日前を描いている。殺害したのは大統領の腹心。なぜ彼は忠誠を誓い尽くしてきた大統領を殺害するに至ったのだろうか、という殺意への経緯をなぞっていく。殺さずとももはや虫の息だった政権。彼が手を汚し、死刑囚となる運命を背負うことなどなかったのに。

史実に沿っていてとても骨太。米との関係も、CIAとのネゴシエーションも見ごたえがある。でもそんな中で私に見えてくるのは純粋なブロマンス。時代劇で言えば主君と家臣、現代なら任侠ものではよく見かける構図。信念を共にして主君のためならと汚れ仕事も引き受けてきた敏腕な家臣が、その敏腕さゆえに主君の猜疑心の対象になり遠ざけられるようになる皮肉。敏腕家臣の苦言が鬱陶しく思えてきたとき、わかりやすく持ち上げ甘言を与えてくれる凡庸な腰巾着を重用しだすのは主君の断末魔。それでも家臣はなんとかもう一度かつての輝いた主君の姿を自分の力添えで取り戻したいと願う。なぜ他をとりたてる、なぜ俺ではないのか、こんなに心をかけ忠誠を尽くしてきたのに、というジリジリとした思いが嫉妬や落胆から見限りへと転換したとき、それならいっそ自分の手で終わらせようと思う開き直りと捨て身はさながら本能寺の変だ。

追い詰められていくKCIAのパク部長はイ・ビョンホン。無表情を装いながら苦悩し翻弄される感じがうまい。朴正煕大統領にはイ・ソンミン。リーダーとしてのオーラと、裏腹の短気で小心で無慈悲な感じがいい。彼が放つセリフ「君のそばには私がいる」には翻弄される。脚本もうまい。作品には全斗煥も出てくるが、こんな形で、こういうことか、と声が出た。

結局この殺害により韓国の民主化への道は鈍化する。むしろ全斗煥の軍事独裁の時代へと突入し後退する道をたどる。韓国現代史でいえばこの後1980年の光州事件(「タクシー運転手」)さらには「1987、ある闘いの真実」へと長く市民の闘いは続いていく。手にできるかと思えた民主化の道が一度遠くなるきっかけがこの殺害だったのかと思うとため息が出る。あのとき車が引き返さなかったら、もう少し違った歴史がその先にあったのだろうか、と考える。時間がある人には時系列に沿ってこの3作品を見てほしい。民主化とはなにか、民主主義とはなにか、韓国市民たちは肌感で生々しく記憶している…
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