MaU

お嬢さんのMaUのレビュー・感想・評価

お嬢さん(2016年製作の映画)
3.8
「別れる決心」を見る前にずっとリストに入れてるチャヌク監督作品を、と思いチョイス。公開当時勇気が出なくて行けなかった作品をようやく。

日本統治下の朝鮮。詐欺師の藤原の話に乗り、上月家のお嬢さんの侍女として屋敷に入り込むスッキ。目的は藤原とお嬢さんを近づけ結婚させ、その財産を藤原が手にすること。成功すればスッキにもその報酬が転がり込むのだが…

日本人の私から見ると話はもはや無国籍。そのくらい大胆で挑戦的なチャヌク監督の演出。全体は三部で構成され、英国原作のサスペンスらしいどんでん返しに次ぐどんでん返し。二部で落胆するが三部でスッキリする。

官能的で淫靡、大胆なチャレンジの多い作品だけど、スッキのキム・テリがいい。彼女はどこか泥臭さとか垢抜けなさとかを演じさせると輝く。「1987〜」でもそうだったように、目の輝きや心の内の葛藤がうまい。藤原と上月のハ・ジョンウとチョ・ジヌンはその間抜けぶりや気持ち悪さがとてもよく、存在感があり、画になる。お嬢さんのキム・ミニは初見。これだけの大胆さを見せながら、実は心の内が読めない雰囲気。後半なるほどと思えるミステリアスさがよかった。そして全体的に映像がいい。日本で言えば角川の横溝正史シリーズのような雰囲気(淫靡さは江戸川乱歩作品)。今日本でこの手の作品作ると明治村で撮影したのかな、と冷めた見方してしまう画になりがちだけど、この作品では上月邸の日本家屋も、日本に来てからの街角もレトロ感がリアル。設定は荒唐無稽でも作品に没入できる重さがある。

原作は英国の小説『荊の城』。見る前にあまり予習はしない人間だけど教えてもらった。実は鑑賞を決めると同時に書籍購入。後日読んで原作からどんなふうにエッセンスを抜き出したのか考察するのを楽しみに。換骨奪胎に近いリメイクだと思うけど、英国の貴族に憧れ日本の国籍を得たいと思う人物たちという設定だと衣装や日常がそれらしくなじんでいるのもよかった。

なかなか人と観るのは難しいタイプの作品だけど、パク・チャヌクを知りたいならやはりこれは欠かせない。見てよかった。
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