たそしだ

君たちはどう生きるかのたそしだのネタバレレビュー・内容・結末

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

本作の下敷きはおそらく、ダンテの『神曲』だと思う。『神曲』との類似点は後述する。
『神曲』を中心に、和洋様々なイメージを織り交ぜた"死後の世界"を巡る、少年の成長と回帰の物語。
これまでのジブリ作品に似たシーンやモチーフも多く、まさに集大成という気持ちで作られたのではないかと感じる。

<あらすじ>
戦時下、病院の火事で母を亡くした主人公・眞人は、父と新たな義母・ナツコの住む屋敷に疎開する。その屋敷には、大叔父の建てた不思議な塔があった。ある日、臨月のナツコが失踪し、眞人は奇怪なアオサギに導かれて、屋敷の使用人である老婆のキリコと共に、ナツコを探して"下の世界"を旅することになる。

<神曲との類似点と考察>
・神曲の概説ウィキ→
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/神曲

・眞人=ダンテ、ヒミ=真人の母=ベアトリーチェ、キリコ=冥界の渡守カロン、アオサギ=ウェルギリウス。

・『神曲』におけるダンテは、暗い森から死後の世界に迷い込む。眞人も同じである。キリコのセリフからもわざわざ暗い森であることが強調されている。

・『神曲』では「この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ」と書かれた地獄の門をくぐるが、これに対応するのが「われを学ぶものは死す」と書かれた門である。よって、眞人が最初に踏み入れるのは、「地獄」であることがわかる。
ちなみに、『神曲』において地獄・煉獄・天国の順に階層になっていることが描写されており、本作も同じ順で死後の世界を巡っていく。
また、本作で描かれるそれぞれの階層の様子は、ボッティチェリらが『神曲』をもとに描き起こしたそれぞれの世界の形にかなり類似している。

・『神曲』において門の前には、冥界の渡守であるカロンがいるが、同じように船で登場するのが若い姿のキリコである。彼女はワラワラと呼ばれる白い生き物(後に天に上って「生まれる」という説明があることから、転生を待つ亡者であることがわかる)を世話する役割を担っていることからも、冥界の守人であることが示唆されている。

・『神曲』において、地獄編の案内人はウェルギリウスであり、これに対応するのがアオサギ?

・インコたちの巣食う城のシーンからは、『神曲』における煉獄編に入る。煉獄編の案内人はベアトリーチェだ。彼女は若くして亡くなったダンテの最愛の人であり、本作においては眞人の母=ヒミである。死後の罪は火で清められることから、彼女は火を操るのだろう。

・出産は死と隣合わせであることから、ナツコは死後の世界にやってきたのだろう。インコたちがナツコを食べることができなかったのは子どもがいるからと言っているが、腹の中の赤子は生の象徴だからかもしれない。

・インコの王が捉えたヒミを携えて階段を登るシーンは、煉獄から天国への道を表しているように思う。あの螺旋階段は煉獄の形状そのものであり、『神曲』においては煉獄の上には天国が続いており、これは階段の上に着いた付き人のインコが「楽園だ(天国編の天国は"パラディソ"=楽園)」と言っていることからも明らかである。

・大叔父のいる場所はおそらく天国だ。『神曲』における天国は、プトレマイオスの天動説宇宙観に基づいて宇宙のような世界観で描写されている。これは、本作で天国が崩れた際に、宇宙のようなものが現れることからも垣間見ることができる。

<結末>
・大叔父は、この世界の構築者を眞人に継いでもらおうとするが、眞人は自分自身で頭につけた傷によって、自分がすでに悪意(罪)に染まっていることに気づき、13の積み木を積むことを拒絶する。
こうして眞人ははじめ拒絶していた現実世界を受け入れ、自身が傷ついても誰かと関わることを選択。インコの王が積み木を崩したことで世界は崩壊し、眞人・ナツコは「132」の扉を通って、ヒミ・若キリコは別の扉を通って、生者の世界に帰還する。
※13の積み木のあたりはよくわからず……132の扉番号にも意味がありそう。再度観て考えたい。

・世界の悪意に一方的に「傷つけられた」と思っていた眞人は、母の死を受け死後の世界に引かれ、また他者を拒絶して自分だけの世界を望んでいた。しかし、死後の世界を巡ることで自身の悪意=罪を自覚し、他の誰かと関わることを選択=成長し、元の世界に帰還した……ということだろうか?

<その他考察>
・アオサギは古代エジプトでは聖なる鳥ベヌウであり、「再生」「復活」を象徴するものだった。眞人の再生を司る役割として最適な鳥?

・使用人たちに缶詰などの食品を分けるシーンで、意味深にうつった老爺の使用人が世話している寝たきりの老人は、実はキリコなのでは?(キリコが使用人たちと一緒にいるシーンもあるが、彼女だけ魂だったりしないかな……) 彼女だけが黄泉の国に隣接していたから、眞人とともに死後の国に行けたのかもしれない。死後の世界から彼女の人形を持ち帰ったことで、キリコもこちらの世界に戻って来られたのかも?
たそしだ

たそしだ