Demoto

君たちはどう生きるかのDemotoのネタバレレビュー・内容・結末

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

一枚では意味のない絵。それが連なり、物語を導き出す瞬間にこそ映画を観ている実感が湧く。そして一つ一つのショットがただ一枚でも美しく輝くときの感動は何物にも代えがたく映画の本質に迫る。
初めて宮崎駿作品で上手さに勝る美しさを感じた。

明確に語られない物語は、却って映像の連なりに導かれる眞人と母の運命に深く沈み込んでいた。それゆえ、宮崎駿作品に自分が感じがちな「話の筋を思い出せない」印象の二転三転するストーリーに対して、今回の作品ではただ一つ一つのショットを思い出すことでも自分の中で自然と完結する作品だったように思う。

アニメーションの罪すなわち、数多の人々を取り込み死人を生み、現実に接地しない虚無の大衆を作り出す幻想を巡る世界で、彼は母と和解できただろうか。その救いは美しい無の世界の魔法からしか生まれなかった。

「火は平気。」
(火の魔法。火は暖かく、美しく安心する。だから火に巻かれて死ぬのは怖くない。)
「あなたのような人を産めるなんて素敵なこと。」
(私は生まれてきてくれたあなたを愛しています。)

その言葉は間違いなく架空の塔の世界を巡らなければ聞けなかった。そうして眞人は母親との別れの言葉、互いを永遠に強く結びつける愛の言葉を、母本人の口から聞くことができた。

誰かとの別れの意味はただ一人、自分の心の中で反芻しても理解できず苦しい。しかし映画やアニメを通して、触れられなくなった誰かの言葉を聞くことができる。そして初めて、失った誰かと永遠に繋がる勇気を与えられる。
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