Demoto

リコリス・ピザのDemotoのネタバレレビュー・内容・結末

リコリス・ピザ(2021年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

ポール・トーマス・アンダーソンのエッセンスである男の生き様は「仕事」そして「女」に託されて描写される。今回新しい境地でそれらに生命が宿っていた。

PTA映画は物語よりは人生の断片の記録という性質が強く、しかし映画的な象徴が巧みに操られる芸術となる。その中で男が如何なる祝福を得られるかを捉え続けてきた。

ゲイリーに「天職」、「他に出来ることがない」とまで言わしめた役者は夢破れ、しかし彼は絶望しない。次々に事業を始め、世の中の奔流に呑み込まれ、しかし世の中を利用して再び返り咲く。これが今のPTAが語る男であり、それはいささかも感傷的ではないリアルな、感情的になる暇もない現実を生きる我々の姿だ。(散々ファントム・スレッドまででそのナイーブさで観客を慰めてきたのだから、もう十分だったとも思える。)

そんな訳でゲイリーは今までのPTA的な「狂人たち」(だがそれは紛れもなくリアル)とは異なる。そして何より、彼は女を愛し、支えるのがPTA革命とも思える。何故なら、今までの男たちは心の傷の根源(ザ・マスター、インヒアレント・ヴァイス)や救い(ファントム・スレッド)を女に求めてきたからだ。

パンチドランク・ラブに回帰したような、しかしそれとも違うのは、女が勇気づける存在ではないこと。どこにとも行かないアラナを励まし、そばにいることを強要せず、彼女の行く先はあくまで彼女のものとして見守る余裕がゲイリーにはある。

その一方で、天職を失ったゲイリーは自分の力で、運に任せ見離されを繰り返しながら力強く生きていく。ゼア・ウィル・ビー・ブラッドの排他的な土地開発とは違う、周りの人々を巻き込みながら、誰かを大切に勇気づけるその姿は全く新しいPTAの描く男であり、しかし現実と格闘するその姿は決して今までの男たちの否定ではない。むしろ、救われなかった彼らへの答えを示すような姿に、慰められるような思いであった。
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