Demoto

トーク・トゥ・ハーのDemotoのネタバレレビュー・内容・結末

トーク・トゥ・ハー(2002年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

自分の人生を引き受け、心の底から生きることを試みる人の物語には心動かされてやまない。

寂しい人生だった。
ガラスの向こうで唯一人の友に向けたその言葉。人はそれが「間違い」であっても自分の人生を生き、引き受けなくてはならない。人を傷つけ、世の中に認められなくとも心の底からの思いに生きた彼の魂とは何だったか。

母親の介護に青春の全てを費やした彼に、「真っ当」であることを求めるのが世の中。
その現実を生きなくてはならない彼が、生きるために、僅かな希望の太陽としてある美しい世界、詩を、夢を求めたのなら。誰かがその美を彼から奪うことは彼の死であり、本作の結末でそれは現実となった。

この作品は現実と詩の間で揺れる男の姿を描いた。
現実と美。
それはこの世に生を与えられた我々が死ぬまで延々と選択し続けなくてはならない世界であり、私達は、映画や音楽、本の形で夢の世界に遊び、現実で一生を終える。

彼の現実とは母の生と死とともに失った時間であり、それ故に捉えられない愛の距離感、永遠に自分の言葉が届かない想い人。そして彼の美の世界は抽象的な舞台、可笑しくも悲しい映画、そして彼女を介護し語りかけ続けるその時間。
彼は遂に、詩の世界を、夢を選んだ。
それは彼自身の心の底、深くに隠された世界であり、私達も密かに抱えている美しさ。
彼を突き動かしたこの世で許されない想い。とてつもなく暴力的な「美しさ」の希求は、罪と罰の物語となった。

人生で最も辛く悲しいこと。
誰も自分を必要としないこと以上に、自分の世界が誰にも無視されること、無かったことにされること。
アリシアに自分を遺すことは叶わなかった(と彼は信じた)。
マルコは、ベニグノの内面の美も、彼の生きた現実も全て理解し、彼の世界を全て見届けた。
歪んだ美の世界を形にして拾い上げたとき、この作品はマルコに出会えなかったベニグノ達の姿を予感させる。
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