フラハティ

君たちはどう生きるかのフラハティのネタバレレビュー・内容・結末

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

私が作る最大の未来。
あなたがいる最大の幸福。


戦時下の東京。
母親を亡くした眞人。
田舎へと住む土地を移動し、父親は再婚する。母と似た女性だ。
庭を飛び回る青鷺は僕を歓迎しているのだろうか。
あの塔の正体はわからない。

宮崎駿の最新作でおそらく最後の作品であるだろう。あまりジブリに詳しくない自分でも、随所に見られるセルフオマージュやどこか見たことのあるような世界観、キャラクターたちは、宮崎駿の集大成という雰囲気を感じさせる。
しかしキャラが可愛くないっすね。これが地味につらい。
全体的にキャラ造形も浅く、姉妹と再婚する父親とか青鷺のキャラクターとか、異様に序盤は奇妙に映すおばあちゃんたちとか、従来の作品たちより変な描き方がされていたように思う。


崩壊していく世界。
取り戻すことができない運命と時間の流れ。
苦しみが世界を蝕んでいく。
でも僕たちは生きていかなければならない。
誰かが平穏な世界を築き上げたとしてもいつかは終わりが来るわけで、基本的に世界は苦しみの中なのだ。
だがその世界を救うのは、イマジネーションの世界。時間や世界の常識を越えたファンタジーの世界。
鳥たちは言葉を操り二足歩行で人間をも食らう。
亡くなった母はなぜか若い姿で、火を操りこの世界を守っている。
婆さんは若返り、男勝りの力を持っている。
この世界を救うのは現実ではなく空想の世界。


世界を創造する大伯父は宮崎駿自身か?
(映画監督としての)自分の後継者はいないとかいう、クソブラックジョーク的な展開も宮崎駿っぽい。
自分が築き上げた世界は、一見平和に見えるが独善的になっているようで、誰もが幸福の中で満たされているようではない。
最後にファンタジーの世界が崩れていき、現実の扉を開いた先に美しい世界が待っている。

誰かから愛されていること。
そこにいなくても、愛されていると感じること。
そんな愛が積み重なってできているのが、僕たちが生きている世界。
世界はひとりでできているものではなく、誰かと共に築き上げるものなんだろう。
これからの未来は暗く、苦しいものかもしれない。
ファンタジーの世界ですら立ち向かうことができないかもしれない。
でも僕らが生きていて、誰かを愛し、誰かから愛されることで、世界は美しく素晴らしく変わっていくんだろう。
映画という世界は素晴らしいが、現実という世界も素晴らしい。

ジブリに思い入れが深くないので、自分からしたら高い評価というわけではなく。
どうしても私的な作品の様相は強く現れており、風呂敷が広がったままという印象を受けるところもあった。
他のジブリ作品と比べるとちょっと物足りないようにも感じた。
ただ、最後に母親(なぜか若い少女の姿)が眞人を抱き締めるシーンだけすごくグッと来た。死をも恐れぬ母の強さは単純に美しい。こうして誰もが生まれてきたのだ。
すべてが生きているような世界。それは望むべきだが、現実には存在していないんだ。『ツィゴイネルワイゼン』をふと思い出した。僕の生きてきた道筋は、すべて無駄ではなく、幾重もの人生がある。みんなが生きている。
悲しみや喜びや怒りや寂しさや母親や父親や友だちやみんなが生きている。
鳥も人も海も風も雨も草も火もみんなが生きている。


宮崎駿はどう生きたか。
クリエイターとしての宮崎駿なき世界に、僕たちはどう生きるか?
フラハティ

フラハティ