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唯一、ゲオルギアのギルドのレビュー・感想・評価

唯一、ゲオルギア(1994年製作の映画)
4.2
【文化の発達で辿るジョージア史の本質】
■あらすじ
「月曜日に乾杯!」「皆さま、ごきげんよう」などで日本でも知られる、ジョージアの映画監督オタール・イオセリアーニ。
劇映画のほかにも中・短編のドキュメンタリーも手がけ、1979年以降は祖国を離れてフランスのパリを拠点に活動した同監督が、祖国の歴史と文化を紹介した3部構成の長編ドキュメンタリー。ソ連が崩壊に向かうことで政治的な混迷を深め、ソ連の構成国だったジョージア(ゲオルギア)では内戦が勃発。祖国がなくなるかもしれないという思いを抱いたイオセリアーニが、映像資料を用いてジョージアの歴史や文化など過去を振り返り、現在を検証した。上映時間は第1部が91分、第2部が69分、第3部が86分、合計およそ4時間に及ぶ。

■みどころ
面白かった!
ジョージアの文化形成を宗教、歴史から捉えたドキュメンタリー映画。
文化の形成に潜む寛容さが文化レベルの向上に繋ぐ一方で、文化の進化が国家間の衝突や支配や圧力でストップになると模造品やプロパガンダの蔓延で痩せ細る。
そんな姿を映画の引用という点で示し続け、点と点を繋いで面になっていくにつれてジョージア史の本質である「文化という生命線」を明示する力強さがありました。

「ギオルギ・サアカゼ」よりジョージアはシルクロードの交差点に位置づけられているという説明が入る。
そこからソ連のみならずモンゴルにも侵略され、各国へ虐げられたり属国という形で吸収される負の側面の説明から入る。
けれども本作はその事に対して決して悲観的にはなっておらず、絶望的な状況であっても文化はなんらかの形で発展していくポジティブさも見せているのが興味深い。
模造品の車・酒が蔓延してたたとしても、歌という苦しい状況を突破する酒のようなもので乗り切ったり、宗教や文化を受容していき修道院・絵画などのアウトプットで徐々に文化のレベルアップが進行していく。

しかも、その文化形成には他宗教という多様性がそのまま反映されており、今の状況をそのまま伝えるものもあれば他国の文化に対抗していくぞという気概を感じさせる作品もある。
修道院の建造にも他にはない良さを形で示そうという意思が見える辺り、文化の競争と文化への寛容に大きな原動力がある事が示されている。
こういった事象や随所に挿入された映画の引用から、ジョージア史の美しい景観・建物には文化が生命線・美学として根付いていて、人々の支えになっていることを明示していく。
そこには「辛いけど拠り所はあるから頑張ろうね」な励ましのようなものもあって良かったです。

映画はロシア帝国〜ソ連までの属国時代の話に進んでいくが、ジョージアとソ連の芸術・宗教への寛容性の違いが如実に現れて、歴史の変遷と映画という点の連続で本懐への対比・答え合わせをしているのも興味深かったです。
一方で歴史の栄光を勝ち取るアプローチにはロズニツァ作品のテイストを思わせて暴力性は循環する事実を突き付けられる恐怖すらあった。
しかしロズニツァ作品と違うのは、本作は善悪の境界がグラデーションになっており支配される事への悪さと良さが混在している所にあると思う。
プロパガンダの影響を除くとソ連の介在による文化へのレベルアップは教育・芸術などに出力されており、スターリン・ベリヤの悪さと対比した描き方を見せているのが興味深かったです。

ジョージアにしろウクライナにしろ歴史の力関係に押された側の反骨精神が映画と群衆のコンテキストで語られるのは土着的要素なのかなと思いました。
そういった意味でも見ることが出来て良かったし、ジョージアの国の魅力を知ることが出来て良かったと言える一作。
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