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コット、はじまりの夏のumisodachiのレビュー・感想・評価

コット、はじまりの夏(2022年製作の映画)
4.5


アイルランドの田舎に住むコットは、出産で母親が不在という中、家でも学校でも居場所がなかった。そこで、夏休みの間だけ親戚夫婦に預けれることになる。酪農を営んでいる夫婦は静かだが親切な人たちで、最初は戸惑っていた無口なコットは段々と心を開くようになり……。

とても丁寧で大切に作られた作品。ほぼ全編アイルランド語(の一種)で進む映画を初めて観たということもあるのだが、しみじみと心に広がる良い映画だった。

明確にいじめられているというわけではないが、なんとなくどこにも居場所がない無口なコット。何を考えているのかよくわからないからか、常にイラついているモラハラ気味の父親もコットの扱いに困っている様子だ。親戚夫婦は本当にド田舎に住んでいて、周りには何もない感じ。妻は親切でコットに笑顔で接し、なぜかコットに男の子の服を貸してあげる。そして、「この家で秘密はダメ」と語るのだった。武骨で言葉少ない夫も実は優しく親切だということがわかる。コットを伸び伸びと子供でいさせてあげようとする夫の気持ちと行動が沁みる。

いらんことを言う近所のおばさんなど村の人々も出てきたりして、多少は賑やかになるし明らかになる事実とかもあったりするのだが、ドラマチックなストーリーではない。でも、親戚夫婦の家で思いっきり子どもらしく扱われたおかげで、どんどんと生きる力を充電していくコットの繊細な変化がとてもビビッドだった。

基本的にアイルランド語なのだが、おそらく英語だと思われるシーンもあって(訛っているから聞き間違いかもしれないが)。主に父親や姉妹が話す言葉は英語だと思われた。親戚夫婦や終盤に登場する母親はアイルランド語だったので、父親はアイルランドの田舎での暮らしに満足していないのかもしれない。「自分はこんなもんじゃない」的なね。コットがあの夫婦の元で暮らせる未来に期待せざる得ない美しいラストは必見。
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