噛む力がまるでない

オール・ザット・ブリーズの噛む力がまるでないのレビュー・感想・評価

オール・ザット・ブリーズ(2022年製作の映画)
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 2023年のアカデミー賞にて長編ドキュメンタリー映画賞にノミネートされた作品である。

 インドのデリーで猛禽類の保護活動を続ける兄弟を追うといった内容で、そのアウトラインだけだと環境汚染を訴えたいのかと思いきや、インフラや治安の不安定なデリーの深刻な問題も扱っており、多層的な目を向けた作品だ。トビたちはたいへん過酷な状況だが、それを救う人間たちもまた過酷な中を生きていて、なんともいえない手詰まり感が漂う。しかしながら、「ワイルドライフ・レスキュー」のサリクたちが保護活動に仮託して生き甲斐的なものを求めているところはあり、多少は晴れやかになっているように見えるのが実に皮肉な話だが、人間の不合理と美徳を絶妙なバランスで感じさせる。サリクたちの活動は非常に地道で大変なのだが、なんだかズッコケ三人組みたいで、可笑しかったり哀愁があったり、彼らの豊かな人間味もよくわかる。

 少しだけ気になったのはテロップなどの説明の少なさである。「ワイルドライフ・レスキュー」に関わる人たちの関係性からしてちょっとわかりづらく、デリーの状況もいまいち局所的な見せ方だったり、インド市民権改正法(CAA)といった政治的なことも詰め込まれているので、取材対象のキャリアとか関係性とか一次情報をもうすこし整理してほしいと思った。あと、これは好みの問題だが、こだわった撮影とルックのせいでデリーが詩的に見えすぎて現実的にとらえにくいところがあり、生々しさに欠けるかなという気はする。