great兄やん

ビデオドローム 4K ディレクターズカット版のgreat兄やんのレビュー・感想・評価

3.9
【一言で言うと】
「刺激は“快楽”の夢を見る」

[あらすじ]
地方テレビ局の社長マックスは、拷問や殺人が繰り返される禁断のテレビ番組「ビデオドローム」の存在を知る。恋人と共にビデオドロームにのめりこんでいったマックスは、残虐な映像を見続けるうちに幻覚を見るようになり...。

相変わらずよく分かんないけど、分かんないのベクトルが余りにも桁外れに“狂気”の方向へと突き抜けてるあの特異さはまさしくクローネンバーグ印の気持ち悪さだったし、分からないなりにも内包されたメッセージ性のシンプルさは『クラッシュ』よりもまだ理解し易い作品だったかと思う。

テレビで見せる露悪的な“刺激”が現実に干渉してゆく危険性…昨今コンプラなどで日本の民放では過激な内容が極限に減ってきてはいますが、極端であれ今作ではこういった事象に陥ってしまうという警鐘的な意味を感じましたし、“刺激”における欲求に上限は無いという欲の底知れなさも、まさに人間の未知なる恐怖領域に引き摺り込まれる怖さに戦慄を覚えました(・・;)...てかまぁ今の時代であんなポルノ紛いの番組を放送してたらBPOやPTAが黙っていませんけどね笑。

とまぁそんな話は置いておくとして、まずなんと言っても“隠喩”の表現技法がメチャクチャ先鋭的かつ先進的であり、尚且つそれを独りよがりな“カオス”に仕上げるのではなく、ちゃんと大衆性に寄り添ったピントに合わせて描いているのが凄すぎるし並大抵の匙加減では到底真似でき得ない“技”である事も伺える。

確かにグロテスクな造形により難解さが際立って突出しているが、それを“マニアック”で終わらせず一つ一つに考察の余地を与えるメタファーとして機能させる技量の緻密さも半端ないですし、何よりもクローネンバーグの作家性と我々観客における“大衆”とのバランスの良さも一際異彩を放っていましたね...まさかクローネンバーグの作品にここまで“理解”が深まるとは😅

それに彼の作品でしか味わえないアブノーマルな“背徳感”も満載で、エロスとグロテスクの生々しい質感はもちろん無機質と肉体の“融合”という類を見ない唯一無二の描写はまさしくクローネンバーグならでは。
所々ダイナミックな演出もあれどああいう“ジワジワ”と精神を蝕んでいく過程がリアルで現実味がありましたし、現実と幻覚の継ぎ目が一切見えない視覚表現の巧さはまさに彼の成せる職人技のようにも思えました🤔...

とにかく過激を求めた先にあるテクノロジーの変容は現実世界においてもその“認識”を容易く歪ませてしまう、まさに“エクスタシー”に脳や体が文字通り“侵食”されゆく恐怖を描いた一本でした。

90分という短い尺ながらもストーリー展開がかなりスローペースで、体感2時間以上あったのではと感じてしまう節もあったが、クローネンバーグの産み出す奇怪な世界観にチープさは全くなく、むしろ“覗き見る”という感覚に近い視覚的興奮を覚えてしまう。

劇中に出てくる分析器(?)的な被り物が明らかにVRヘッドセットに近しいという先見の明も光っていますし、一体何食べたら腹にできたビデオデッキにVHSを入れ込むという発想ができるのか不思議で仕方がない笑。なんだよあれは、新手の“セックス”かよ笑笑。