great兄やん

PERFECT DAYSのgreat兄やんのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
5.0
【一言で言うと】
「ささやかでありふれた“幸福”」

[あらすじ]
東京・渋谷でトイレの清掃員として働く平山。淡々とした同じ毎日を繰り返しているようにみえるが、彼にとって日々は常に新鮮な小さな喜びに満ちている。昔から聴き続けている音楽と、休日のたびに買う古本の文庫を読むことが楽しみであり、人生は風に揺れる木のようでもあった。そして木が好きな平山は、いつも小さなフィルムカメラを持ち歩き、自身を重ねるかのように木々の写真を撮っていた。そんなある日、思いがけない再会を果たしたことをきっかけに、彼の過去に少しずつ光が当たっていく...。

ぶっちぎりで本年度ベスト。ここ数年の中で本気で良い映画に出会えた気がする。まさに小さな“幸せ”が歪ながらも上手く積み重なって出来た、普遍的でありながらも奇跡のような素晴らしい“日常”に浸り続ける映画でした...いやマジで、今年のNo.1はもうこれで良いんじゃねぇのか?ってぐらいの神作。マジで。

本年度の映画祭でオープニング作品として選ばれた今作ですが、残念な事に抽選に外れて意気消沈…となってた所、とある有識者から日比谷で先行上映をやってると聞きすぐさま鑑賞した次第ですが、いやぁ〜ホントありがとうヴィム・ヴェンダース!!って感じですね!笑。本当ならば12月22日までお預けを食らってた所をこういう“奇跡”に巡り会えて感謝しかないです😌...

とにかく全シーン、一分一秒の“瞬間”に宿る愛おしさがハンパじゃなく良い。東京にあるデザイナーズ・トイレの清掃員を務める平山のありふれた日常を描くといったストーリーで、淡々とした起伏の無さが終始目立つものの、その日常に潜む小さな“幸せ”を丁寧に紡ぎ出しており、いつしか“いつまでも観ていたい”と思わせる描写の変化を表す技量というのがメチャクチャ絶妙かつ秀逸。まるでジャームッシュの『パターソン』を彷彿とさせる平坦な“美しさ”というのが全体を包み込んでいましたね🤔

それになんと言っても平山を演じた役所広司の演技力がもう最高。元々凄まじい役者だとは思ってたけど、やっぱ尋常じゃないわこの人。マジで。
市井の人間として溶け込める違和感の無さもだし、今年のカンヌ男優賞は彼の為にあったのではと思わせるくらい表情に含みを持たせた演技が絶品で、極端に言葉数が少ない役柄ではあるものの、表情で哀愁と喜びを表現してしまうあの技術はまさに“神業”そのもの。

それからヴィム・ヴェンダースが得意とする刹那的な瞬間を映像に落とし込める美的センスも流石でしたし、東京のありふれた景色が彼の手によって忘れ得ない“情景”として映し出される映像美に思わず涙が溢れてしまうほど。
木々の木漏れ日や朝日の昇る瞬間、下町ならではの侘しさに喧騒の中に佇む寂しさ…まさに“侘び寂び”の極意が詰まった画の美しさに鳥肌が立ってしまいましたね...

とにかく平山の生活する“今”に小さくも木漏れ日の如く“幸福”が差し込まれる、ありふれた日常にこそ最高の“瞬間”が宿ることを教えてくれる、まさに奇跡のような一本でした。

全体的にアケルマンの『ジャンヌ・ディエルマン』のような病的にも堅実な“反復”を平山は行ってるのだが、明らかに違うのはそこに自分が幸せだと感じてるかどうかだと思う。たとえ自分の思い通りにならなかったり、他人にとやかく言われたりしても、自分にしか分からない・見えないような“幸せ”を噛み締めることができる人こそ真の“幸福”なのかもしれないし、ある意味平山こそ今の日本に欠けた“豊かさ”を持った人物でもあると言える。

そんな日常が終わりへと向かうあのフィナーレはまさしく圧巻。もはや神の領域にまで入り込んだ完璧な締めくくりに涙が止まらなかったし、是非とも劇場で体験してほしいくらい。正直言って、あのラストシーンの美しさは『燃ゆる女の肖像』に次ぐ素晴らしさがありましたね...

※コメント欄にてネタバレ感想あり