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PERFECT DAYSのikustatinoのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.2
『パーフェクトデイズ』

寡黙な男の繰り返す日々が、物語を風に揺らぐ木漏れ日のように小さな光と影の濃淡を彩る。
いつもの仕事、いつもの店、いつもの音楽。けれど同じ場所を同じカメラで毎日収めたとしても同じ写真は一枚も残らない。
人生もまたそんな1秒24コマの活動写真なのかもしれない。

ヴィム・ヴェンダースの映し出す摩天楼というよりも、隅田区あたりの下町の風情を残した東京を舞台に、波打つように走る首都高、雄大な隅田川に、伸びたカセットテープの音。さらには時折挟まれる夢現の微睡も相まって物語は観るものに意図的に揺らぎを刷り込んでゆく。

それは現在と過去、未来との狭間で誰もが揺らいでいることの象徴であろうし、行きつ戻りつ出会いと別れを繰り返す人の営みの象徴でもあるだろう。
日々に一喜一憂する人の不合理性を含めて今を肯定し、損なわれる日々を"完璧"と讃える本作こそ裏返せば"完璧な美しさ"を兼ね備えた作品かもしれない。
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