ikustatino

枯れ葉のikustatinoのレビュー・感想・評価

枯れ葉(2023年製作の映画)
3.7
『枯れ葉』

その日暮らしの男と女。1人には耐えかねていながら、情熱で恋に落ちるには歳を重ねている。ラジオからは戦争のニュース、更にひねればシャンソンが流れる。
生活と仕事とを繰り返し、時に酒を飲み、時に歌い、傷つき、愛を見つける。
騒乱を傍に、悲喜交々生きる現代人の為の優しい物語。

既に多くの人が指摘している通りこの作品はヴィム・ヴェンダース監督の『パーフェクトデイ』と多くの類似点を感じることができる作品となっている。
カウリスマキ監督とヴェンダース監督2人ともが小津安二郎の影響を公言している事を考えれば似るのは当然なのだけれど、特筆するべきはテーマ性だろう。

「この世界には繋がっているように見えて繋がっていない世界がある」これはパーフェクトデイズでの台詞だけれど"経済システムの末端に位置するような市井の人々の飾らない暮らしの中に美しさが宿る"混迷の時代に巨匠2人が幸せとは何か見つめなおす事を選んだ意味はとても味わい深いものがある。

"一段低い所から市井の人々の暮らしを見つめ、自身の孤独を弔う"という映画スタイルは、戦中戦後を生きて作品を作りあげた小津安二郎にしかなし得ない妙義だなと思っていたんだけれど、海を超えてドイツとフィンランドで年齢を重ねた巨匠が彼の魂を継承した作品をつくるに至った事。

奇しくもそれが隣国の戦争によって引き出された境地であるという事には感慨と皮肉を感じる。
だが物語が時代の合わせ鏡となる時、そこに時間を越えて作品同士が対話するような輝きを僕らは見るのだなと感じた。
ikustatino

ikustatino