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ダム・マネー ウォール街を狙え!のikustatinoのレビュー・感想・評価

4.1
『ダム・マネー ウォール街を狙え!』

ゲーム・ストップ株騒動とは何だったのか。
コロナ禍に経済格差に喘ぐ庶民達の起こした一揆か、はたまたSNS時代のミーム株を使った悪ふざけか。
歴史はまだこの事件の是非を判断しかねているように思う。
けれどもこの珍事の顛末は、重税と政治腐敗に喘ぐ日本人に多くの教訓をくれるはず。

時は2020年。誰もがマスクをして人々はすべからく分断され、明日が見えず酷く惨めな気持ちだったのを覚えている。
日本では丁度老後2000万円問題が話題となり、NISAについてチラホラと語る人が出始めていた頃でもあった。ごたぶんに漏れず僕も投資をし始めたタイミングだったので、ゲーム・ストップ株騒動の事はよく覚えている。

機関投資家の空売りでゴミ同然まで株価の下がった中古ゲーム販売店の株を一人のゲーム好きのマイナー・インフルエンサーが買い支えた事をきっかけに噂が噂をよび、いつしか株価が急上昇。「機関投資家が焼け死ぬまで株はダイヤモンドハンド!絶対売るな!」を合言葉に小口投資家(庶民)が熱狂し、打倒資本家を目指して株価は跳ね上がり続けるが…。

日本では投資はまだほんの一握りの人しか参加しておらず、多くの人にとってはいかがわしい賭け事のように見えていることだろう。悲しむべき事に小口投資家の資金は機関投資家からはダム・マネー(無駄金)と呼ばれている事を考えればあながち間違いではない。
けれど株式市場とは資本主義の正に根幹であり、現実の合わせ鏡であるとも言える。
社会のあらゆる情報が株価に反映され、投資家はその全てに目を光らせる必要がある。とても簡単なことではないし、武器にもリスクにもなりうるのが投資だ。
しかし学び一つで労働者が正当に富を獲得できる最後のフロンティアでもある。

本作はこの世がどんなにクソゲーに思えても一人ひとりにまだ社会を変える力があるということ。そしてその功罪として勝者の利益は必ず敗者の損失によって生み出されるということ。この二つの不文律を資本家と労働者二つの視点から教えてくれる。
そしてこれがほんの数年前にアメリカで起きていた嘘のような本当の話で、まだまだ市場には民主化の余地がある。これは物語以上に興味深い真実であろう。

株式投資の経験のない人にとってはなかなか敷居の高い内容ではあるが、もしも今あなたが「これからNISA始めなきゃなー」などと考えているなら本作を証券口座を開く前にまず観てみてほしい。きっと投資に対する見え方が変わるはず。
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