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笑いのカイブツのikustatinoのレビュー・感想・評価

笑いのカイブツ(2023年製作の映画)
3.8
『笑いのカイブツ』

生まれた時から片親で、学生時代は誰とも話さず過ごし、強烈な焦燥感を抱えて徹底的に笑いを追求するツチヤ。
類稀な笑いの才能を持ちながら人間関係はとことん不得意で、彼の行先は行き止まりと袋小路ばかり。
「俺はカートみたいに伝説残して27歳で死ぬんじゃ」そんなイタイ事を大真面目に信じて壊れゆく姿を魅力的に演じた岡山天音は流石という他ない。

ぼくはリトルトゥースを名乗れるほどオードリーマニアではないけれど、若林とサトミツの関係とかオールナイトニッポンでのコンビのキャラクターはなんとなく知っていたので、あんなご機嫌なラジオの裏でこんなにも悲喜交々の物語があったのかとゾワゾワする部分があった。

本作はとにかくツチヤから見える社会の姿をすごく大切にしていて、壊れそうに歪なツチヤという男にお客さんが感情移入できるような視点の橋渡しをしつつも、彼を肯定する訳でも否定するわけでもないような距離感だった事がとても良かった。

またツチヤ囲む冷酷な人々と優しい人々、そのどちらの視点にも愛憎が入り混じっており、仲野太賀や菅田将暉の演じるツチヤの肩を持ってくれる人々の気持ちも結局己の中の焦燥感の暴走で壊してしまう。
現実社会の人間関係の難しさ複雑さががそのままフィルムに焼きついているようだったのもとても印象的だった。

新年1発目の映画鑑賞にふさわしい作品だった。
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