アー君

PERFECT DAYSのアー君のレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
3.5
無口な清掃員を主人公とした、単調な日常を好む定年に差し掛かった平凡な話ではあるが、繰り返し起きる日々に時たま起きる出来事にも親近感を感じるドラマであり、ヴィム・ヴェンダースと役所広司のコラボということで観る前に期待をしていたが、裏切ることのない予想どおりの映画であった。

平山を演じた役所広司は難しい役柄を私たちに分かりやすい演技で伝えていた。女将(石川さゆり?!)のお店で、時折みせる饒舌なシーンは寡黙な男が好意を寄せている女性にしゃべり出す癖は見事である。また突然の同僚の退職により自分のパターンが崩れてプチパニックになり、電話で抗議する場面も共感がもてる演技である。そのチャランポランな同僚のタカシ役の柄本も実際にいそうなキャラクターだろうと思う。

一日の区切りをモノクロで夢の世界でみせる方法は観客側には丁寧な演出であり、平山のルーチンである車の中のカセットテープ、公園での昼食、仕事の後の銭湯、行きつけの飯屋、フィルムカメラの現像屋、コインランドリー、寝る前の古本等は、デジタル世代とは裏返しのアナログの名残りがノスタルジーとはちょっと違う雰囲気を描写してはいるが、斜めからの意地悪な見方をすれば、準公務員のような平山の行きつけ先は共有施設の比喩でもあるとはいえよう。(役所広司自身が元公務員だった事までは指摘はしないが。)

外人監督が描くステレオタイプな日本は失敗に終わるのが定説ではあったが、今回はそれなりには上手に撮ってはいたが、これは監督の力量よりも日本の製作側が結構口出したからだと思う。しかしヴェンダースが敬愛する小津映画らしさにはほど遠く、平山の妙なストイックな性格も特殊であり「GEISHA」「FUJIYAMA」『HIRAYAMA』のように日本の変なイメージが付かれたくはないのが本音である。

「THE TOKYO TOILET」についてになるが、確かに三浦友和との影踏み遊びの場面は、広告代理店が作りそうなCMを拡張させたところもあり、小津安二郎120周年のシンポジウムに絡ませて批判的な意見も少なからずあったようである。

最近のSNSでヴェンダースの過去作でニック・ケイブのギタリストのソロシーンがないことを茶化していた批評家も、本作の評価が客観的に高い事に対する妬みではないかと推測している。(ブリクサ・バーゲルドのポジションは飽くまでもサポートである)

これは私見になるが、名だたる建築家に忖度で発注をかけることでインフラ整備に億単位のお金が動くのであれば、若手で無名のクリエイターにチャンスを与えて世に出すべきであり、そして余った予算を雇用対策などに回すのもひとつの手段である。さらに今後の自治体として重要な課題は、震災などの災害時による避難中のトイレ事情の解決策であり、早急に水路を確保して仮設トイレを設置して被災者の感染からの二次被害を防ぎ、必要最低限の衛生環境を維持していくことが目的である。とどのつまり非常時には大先生たちの展覧会の場はなく、装飾過多のデザインなどは不必要であることを念頭に置かなければならない。

それでも今回の行政と民間企業による連携には、上記の発注以外は疑問はさほどなく、マシな事例になるのではないだろうかと願いたい。世界における公共施設のトイレ事情は未だに衛生環境などの問題を複数抱えているが、渋谷区はLGBTQの取り組みにも牽引しており、公共施設もジェーンダー平等へ向かう過渡期でもあり、今後は公共トイレを皮切りとして、私たちもこの問題に率先して意見を出し合い社会参加をするべきであろうかと思われる。

Just a perfect day
たったひとつの完璧な一日

Drink Sangria in the park
公園でサングリアを飲んで

And then later
When it gets dark, we go home
そして、その後 
辺りが暗くなり、僕らは家路に着く

Just a perfect day
たったひとつの完璧な一日

※この曲はヴェルヴェット・アンダーグラウンド(姪の名前はヴォーカルのニコから)を脱退したルー・リードの2枚目のソロアルバム「トランスフォーマー」収録。歌の内容はリードが麻薬中毒だった時期の心象世界が描かれている。

[TOHOシネマズシャンテ 13:50〜]
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