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ポトフ 美食家と料理人のgreat兄やんのレビュー・感想・評価

ポトフ 美食家と料理人(2023年製作の映画)
4.3
【一言で言うと】
「愛を育む“調理”」

[あらすじ]
舞台は19世紀末フランスの片田舎。シャトーで暮らす美⾷家のドダンと天才料理⼈のウージェニーの2⼈が⽣み出した料理は、⼈々を驚かせ、その類まれなる才能への熱狂はヨーロッパ各国にまで広がっていた。
そんなある日、ドダンはユーラシア皇太⼦から晩餐会に招待される。豪華なだけで論理もテーマもない⼤量の料理に退屈するドダンは、家庭料理で皇太⼦を魅了できるか挑戦することに。トライするのは、最もシンプルな料理“ポトフ”。だが、そんな中、ウージェニーが倒れてしまう。ドダンは⼈⽣初の挑戦として、すべて⾃分の⼿で作る渾⾝の料理で、愛するウージェニーを元気づけようと決意するのだが...。

第36回東京国際映画祭にて鑑賞。

格別な“味わい”を嗜む136分間。食は人を豊かにするとはよく言ったものだが、まさに観ていて身も心も豊かな充足感に包まれる最高の映画だった。当初はそこまで気にも留めなかった作品ではあったが、今となってはこの映画祭で出会うことができて本当に良かったという気持ちでいっぱいですね😌...

とにかく描写や演出がただただ素晴らしいとしか言えない。本編の殆どが料理を作るシーンで満たしており、セリフなどは必要最低限といった形で抑えられた印象がとても強い作品ではあったが、その料理を作る“工程”においてここまで真摯に、かつ繊細に描いた作品は今まであったのだろうか、それくらい丁寧に描かれた料理に対する表現に思わず目頭が熱くなったほどですし、カンヌで監督賞を獲ったのも必然だったのではと思ってしまうくらい。

特に冒頭15分ほど描かれるフルコースの調理シーンはもはや映画を越えた“アート”を観ているかのような美しさ。柔和な日の光が差し込むキッチンで料理と向き合うあの一連の流れはまさに監督の美的センスが抜群に冴え渡っており、昼飯すら食ってない空腹時に観たからか出てくる料理の美味しさに思わず喉を鳴らすほどでしたからね🤤...

とにかく料理を突き詰めた先にある食すことへの“喜び”とパートナーへの“愛”がふんだんに詰まった、まさにシンプルなストーリーでありながら奥深い愛の“隠し味”が潜んだ麗しき一本でした!!

美食家と料理人という間柄でありながら絶妙な距離感を保ったジュリエット・ビノシュとブノワ・マジメルの演技は本当にお見事でしたし、官能的な瞬間が垣間見えるも下品な雰囲気が漂わない上品な“エロス”を感じれるシーンもあり、まさにトラン・アン・ユン監督の持つ“魅力”が最大限に放出された素晴らしさを感じましたね😌

食物からエロスを彷彿させるメタファーの艶めかしさも抜群ですし、もし劇場公開されたら必ず映画館で観ることを推奨したい一作。空腹時に観るとその後に食べる食事がより美味しくなること間違いなしですね...

【補足】
舞台挨拶にて監督とブノワ・マジメルさん、そしてアートディレクターのトラン・ヌー・イェン・ケーさんが登壇。レッドカーペットの様子や今作を制作するにあたっての裏話など色々聞けて良かったが、特にブノワ・マジメルさんが当初ほっそりな体型だったのに練習で料理を作って食べてを繰り返した結果10キロ増えてガタイがゴツくなった話が微笑ましすぎて笑った笑。