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落下の解剖学のhiyoriのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.1
ジャスティーヌ・トリエの作品。裁判を中心とした映画で被告人の内面や私生活まであらぬ方向に晒されることはよくあるが、本作では作家がその対象であることに意味があるように思える。夫婦二人の関係、二人にしか分からないことはは他者のフィルター通せばフィクションのようなもの。精神を擦り減らすような大喧嘩をしても尚愛していたと言い切れるのは単なる愛憎で割り切れない複雑な様相があるからに違いない。本作は感情に訴えたもん勝ちの司法に対する警鐘でもあるが、やはりトリエの作家としての憤りが大きいのではないだろうか。作家は時に消したいほどの過去や感情を作品の中に閉じ込める。それは当人にとって一つの真実であり真実のすべてではない。本作からは己だけの真実、謂わば創作を持つことの覚悟と迷いを感じる。解剖されているのは事件の真相ではなく、死なないように隠していた心の秘め事なのだろう。
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