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落下の解剖学のsinginggizmoのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
3.8
夫サミュエルの死の真相を解明するお話しではなく、実は法廷劇で明らかになるのは、この夫婦や家族が抱えていた問題。

裁判の判決はいったんは出るものの、決定的な証拠はなく真相は藪の中、しかも主人公サンドラも共感しにくいキャラクターで、ダブルでもやっとした気持ちになる。
しかし、後からいくらでも考えを巡らせることができて、そこがおもしろい。

自殺なのか、事故なのか、他殺なのか、どの可能性も捨てきれない脚本で、もやっとするのだが、うまいなーとも思う。(事故はないか…?)

サンドラは作家としての地位もあり、リベラルな思考の持ち主。他人の感情には寄り添えないタイプで、自分の思いやりのなさや身勝手さには素で無自覚…(というキャラクターに私には映った。)
だから、サンドラが夫を殺したんじゃない?とも思える。

一方、夫サミュエルは、作家になりたいが、教師の仕事や、息子の世話、家事のせいで執筆する時間がとれない、サンドラの協力が足りないと不満を持っている。
息子の事故以来、薬にも頼っている。
サンドラとの喧嘩のシーンでは、自分が被害者かのような、うんざりするくらい女々しい主張をするので、サミュエルも全然好きになれない。
サンドラに復讐する意図で自殺したんじゃないか?とも思えなくもない。

息子は最終的に、母サンドラに有利になるような証言をする。
最初の証言は、母に不利なものだったから、(それがわかって後から撤回するし)本当は母が父を殺したかもしれないという思いはあったはず。
それを押し込めて、覚悟して自分の中の真実を決めたということ。
ラストの母との抱擁シーンでは、息子ダニエルの方が母を守るように抱いてキスしていて、彼の強い意志を感じた。

前編通して、ボーダーコリーのスヌープが素晴らしい演技をしていて良かった。メッシちゃんすばらしい!
聡明さと可愛さのある子。
白と黒の毛色の配分や、表情が絶妙。
物語のなかでも重要な役割を担っていて、犬を魅力的に映す映画は、やっぱりいい。

しかしこの夫婦、全然共感できなかった。
後半の夫婦喧嘩が凄くて見どころなんだけど、お互いまじで相手に寄り添わない!(笑)
夫婦喧嘩を観ながら、どっちもどっちー!ってなった。
そんな文句あるくらいなら別れなよー、絶対お互いに変われないから諦めなよー、一緒にいても苦しいだけじゃん…と、人間関係にドライな自分には理解不能。
逆に、こんなに言い合ってまで一緒にいようと努力したことない自分は、愛を知らないのかもなーなんて思った(笑)
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