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枯れ葉のはまたにのレビュー・感想・評価

枯れ葉(2023年製作の映画)
4.8
語らぬ 2人に代わって声を上げるスパークリングワイン。

「嬉しい」がこんな風に演出されるなんて極上じゃないか。ここにいられる喜びが存分に表現されたシュワ~。耳にしたこっちまで笑顔になる。

引退を撤回して届けられたアキ・カウリスマキの新作。それは、今作を最高傑作に挙げる人も多くなるんじゃないかと思うくらい魅力のたっぷり詰まったラブストーリー。

印象的だったのは、男女が惹かれ合う理由が描かれていないというところ。本来ならそれは大きな手落ちになるのだけど、全く気にならない。それどころか「そういうもんだよね」と妙に得心させられるほどだった。

これがカウリスマキなのかなと思う。語らぬことの饒舌さ、沈黙に潜む豊穣さみたいなものを知悉していて、それを監督ならではのテンポのいいオフビートに込める。まるで「人生だってそういうものだろう?」と言わんばかりに。

もちろん、似たような境遇の2人だし、歌や会話や装飾なんかに示唆や暗示やほのめかしが散りばめられていたのかもしれないけど、「だから2人はほとんど一目惚れのような形で惹かれあったんだ」と思える決定的な何かはなかった。そしてそれが、とんでもなく心地いい。意外なほど? 当たり前のように? どっちだろう。でもとにかくよかった。

フィンランド、2023年時点で国民の幸福度で6年連続世界一らしい。でもその色眼鏡では、ここに描かれた疎外感や孤独を見落としてしまうだろう。かの国では「みんなハッピー!」なのではなく、みんながささやかなしあわせを見落とさないように努力して(踏ん張って)いるだけなのかもしれない。

家具調度品のカラフルな可愛らしさを別とすれば街角や建物の中の様子は寂れているように見えるし、実際この都市環境を日本にまんま移植したらみんな口々に「幸せじゃない」とか言い出しそう。なので、幸せの尺度が違う(ことをランキングという形式は表せない)、あるいは想像の中での幸福度の高い人たちの顔を我々が見誤っているだけなのかもしれない。かもしれないっちゅうか、そう。多くの日本人にはもう、無愛想の奥にある優しさを読み取ろうなんて殊勝なことはできない。

ただでさえ思ったように回らない人生の中で、ましてや日常の中に戦争の毎日が差し込まれる中で、私はといえば期限切れの食材を懐に忍ばせなくば食い凌げず、俺はときたら酒瓶を片時も離すことなく飲んだっくれている。もう歌うしかないじゃないか。その先に不意の出会いがあり、歩みをともにする未来も(ときには)ある。そんなことを描いた作品かと思いました。

とまあ、色々書いてますけど、実際のところ個人的にいちばん共感したのは誰あろうあのカラオケ王であって、自分もいつかこのFilmarksのレビューを出版社の人間が見てて「1レビュー100万円で書かないかい?」と言ってきてくれるのを待っている。というか、もう噂が噂を呼んでいるに違いない! やった! 明日には俺は富豪だー!!!(← 永遠に幸せになれない奴)
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