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関心領域のlololoのネタバレレビュー・内容・結末

関心領域(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

もし題名と日本版ポスターだけしか事前に情報がなくてこの映画を観たとしたら、自分はどのタイミングでこれがホロコースト映画だと気付くだろう。冒頭の不穏な音楽と長く感じる暗い画面を抜けた先に見えるのが、あまりに穏やかで美しい川辺のピクニックの景色だったから。私は呆然としてしまった。

もしなんの事前情報もなかったら、私は(これまでホロコースト関連の作品をいくつも観てきたから)軍服が出てきたところで察することは出来るかもしれない。でも、軍服が出るまでの間に周りで鳴り続ける銃声や響き続ける怒号の意味にどれだけ早く気付けただろう。
だって、劇中のヘスは「働き者の軍人」だし、奥さんは「ただのガーデニング好きな奥さん」として描かれているから。

多分、これが「無関心」なんだと思う。目の前の夢のように美しい生活だけを見て、それ以外のことに関心を向けない人間心理。
作中の奥さんがいかに収容所内の出来事に関心がないか、その描写がリアルで怖かった。「あの中の出来事に関心がないの」というセリフが全くなくて、アウシュヴィッツへの言及が「収容所の壁を隠すために蔓性植物を育てる」だけだったのがゾゾゾとなる。関心がないと、そもそも話題にも出さないから。

本作はアカデミー賞音響賞を受賞したとのこと、それもかなり納得だった。迫力ある描写の映画が受賞するのが常の賞らしいけど、この映画ほど音響を上手く利用した作品はなかなかないのでは。
ホロコースト映画なのに、観客はその惨劇をほぼ音でしか感じられない。見る側がどれだけホロコーストについての知識があるか、察する力があるか次第で見え方が変わる。それがとにかく怖い。ある意味で、観客を信用している描写なのかもしれないし、こちらの想像力を試しているようにも感じた。

とにかくエンドロールで流れる音楽が怖かった。あんなに早く終わってほしいエンドロール初めて。


【以下、試写会のトークショーでへぇーと思ったことメモ】
ゲストは映画ライターの高橋諭治さん。

⚫︎タイトル
1.「関心領域」という言葉は、ナチスが使ってた言葉。収容所周辺40キロをそうやって呼ぶそうな。

2.邦題が「関心領域」だけなのは思い切った英断。普通、日本でホロコースト映画をやる時は「ナチス」や「アウシュヴィッツ」を思わせるフレーズを入れがちだから。

⚫︎撮影手法
1.庭に十台くらいのカメラ、マイクを色んなところに置いて演者には自由度高くカメラを意識しない演技をさせた。その中に、収容所の煙突や建物、囚人を乗せる電車の煙が入り込むようにカメラワークを綿密に決めている。
手持ちではなく固定カメラ。撮り手の感情を排除した、監視カメラ的な視点になってる。

2.戦争モノなのにデジタルでクリアな映像(モノクロのフィルムで撮ろうってなりがちなところを。)→現代の視点で撮りますよという意思かもしれない。

3. 人工的な照明を使ってない、リアルで無機質なビジュアル。サーモグラフィー(暗視カメラ)も、夜の中撮影するための手法として選ばれたのかも。
(りんごを囚人に渡してた女の子は実在する、映画公開前に亡くなってしまった。良かれと思ってやってたりんごの差し入れを巡って囚人同士が争い、射殺されたのは皮肉)

⚫︎最後のヘスの嘔吐シーン
1.嘔吐するのは「アクトオブキリング」を思わせる(大量虐殺に加担した老人のドキュメンタリー映画)。殺人の手口を得意げに話してた老人が急に嘔吐する場面がある。ヘスもまた大量虐殺に加担した。潜在的な罪の意識が身体的な反応に出たんじゃなかろうか。

2.この時の階段のモノクロな床の模様はシャイニングのホテルみたいな怖さを感じさせる。

3.ヘスが「現代のアウシュヴィッツ収容所博物館の清掃風景」という未来の景色をフラッシュフォワードしているのは、彼がこれから自分がやる「ユダヤ人の大量輸送」がどんな結末を迎えるのか察している、自分の仕事の後ろめたさに気付いている、ということの表れでは。
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