瞳をとじて
"ミツバチのささやき" のビクトル・エリセが、31年ぶりに新作を撮ったということで迷わず鑑賞。
映画監督のミゲルがメガホンをとる映画 "別れのまなざし" の撮影中に、主演俳優のフリオが突然の失踪を遂げた。それから22年後、ミゲルのもとにかつての人気俳優失踪事件の謎を追うテレビ番組から出演依頼が舞い込む。
ゆっくり流れる時間と味わい深い映像が心地よく、じっくりと噛みしめるように鑑賞した。特に後半の波音は穏やかな気持ちになり、随所に挿入される歌の演出も効果的で、3時間近い上映時間もあっという間であった。
作中のミゲルの状況は、長らく新作を撮らなかったエリセ監督自身とどうしても重なってしまう。過去の監督作品やアナログ映画への想い、溢れる映画愛など、まさに監督の集大成のような作品になっていて、観終わると胸が熱くなってしまう。
幼少期と変わらぬアナの純粋な瞳が印象的。終盤の上映会シーンは "ミツバチのささやき" の冒頭を想起させるし、アナが父親の隣に座りある台詞を言う場面は、同作のあのシーンと同じ。これらを観ることができただけでも大満足で、作品の余韻に浸りながら映画館を後にした。