近所のミニシアターでやってたアキ・カウリスマキ特集で最後に観たやつですね。多分これでアキ・カウリスマキ作品は大体は観ただろう。20世紀のアキ・カウリスマキ作品は基本的に自宅のレンタルビデオ鑑賞で飲みながら見ているので見たかどうか記憶がおぼろげでかなりあやしいやつもあるのだが、多分16~17本くらいは見ていると思うのである程度は総括的に語っても許されるのではないかと思うがそれでいくと本作『パラダイスの夕暮れ』はめちゃくちゃ典型的なアキ・カウリスマキ作品で、長編監督作3本目ですでに作風出来上がってたのかよ! って感じの映画でしたよ。というかこれ現状(2024年6月)の最新作である『枯れ葉』そのまんまっていうか時系列的には『枯れ葉』は『パラダイスの夕暮れ』を原型として現代版としてバージョンアップさせた作品だったんだなと今更ながらに思いましたね。
本当にいつものアキ・カウリスマキ作品なので特に言うことがない。ゴミ収集業者の主人公が独立しようとするが失敗して人生這い上がれないような状況で出会ったスーパー勤務のこれまたイケてない女性と出会い、なんやかんやありながら何とかなるというお話ですよ。
同監督の作品でそういう映画5本の指では足りないくらいに見てるよ! っていう感じだけど多分この『パラダイスの夕暮れ』がオリジンなのではないだろうか。前作の『カラマリ・ユニオン』は未見(今回の特集でやっていたが観れなかった…)なので断定はできないがあらすじを見る限りは底辺中年男女の恋愛モノという感じではないので多分『パラダイスの夕暮れ』がアキ・カウリスマキ的貧乏男女の純愛映画としての大元であろう。
そう思うと中々に感慨深い映画である。これから40年近く経っても似たような映画撮ってるということも感慨深いが、似たようなもんでありながらそこにある違いというのも面白かった。アキ・カウリスマキといえばセリフも構図もミニマルなものという印象があるが、本作ではその片鱗はあるとはいえまだフレームの中にコンパクトに収められた箱庭的な人間たちの悲喜劇というものが名人芸という域には達していなくて、要は普通の映画っぽい作りのシーンが多いんですよね。役者がわりと身振り手振りをしたりするのも今となっては新鮮だったりする。
描かれているもの自体は今のアキ・カウリスマキと比べてもほとんど同じだと思うけどその見せ方は微妙にこなれていない感じで若さを感じるんですよね。そしてその技術的に未熟であることがより登場人物の生っぽさにも寄与していて、完全に自身のスタイルを確立した後の作品ではなかった野暮ったいと言ってもいいようなかわいげのある映画だと思いますね。いや21世紀以降の映画も基本的には朴訥とした野暮ったい純朴さが持ち味ではあるんだけど、それはやっぱ狙って演出されてるものなので本作にはそこにはない原型があるって感じですね。
とりあえずこれからアキ・カウリスマキを見ていこうという人には入門編として最適な一本ではないかと思う。過不足なくたった80分で節々で笑える悲哀と素敵なかわいい恋愛モノになっているのは流石です。ちなみに俺は『真夜中の虹』と続けて観たんだけど、どちらも船出がラストシーンになっていてグッときてしまったな。無愛想気味だけどそこかしこでかわいいヒロインもよい。
面白かったです。