ロックウェルアイズ

哀れなるものたちのロックウェルアイズのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.4
天才外科医のゴッドによって蘇ったベラは、体は大人だが知能は幼児レベルという女性。
ゴッドの屋敷で大切にされてきたが、人と関わり知識を増やしていく中で外の世界を見てみたいと思うようになる。
ゴッドの助手のマックスと婚約することになるベラだったが、婚姻届の作成のためにやってきたダンカンという弁護士と急遽駆け落ちしてしまう。
リスボン、アレクサンドリア、パリと世界各地を転々とする中で、彼女は着実に1人の女性として成長していき……

やっと観れた。
大好きなヨルゴス・ランティモス監督の楽しみにしていた最新作。
今作もただの女性の成長物語では終わらないトガった作品ではあるが、今までの作品とも明らかに違う雰囲気。
ここまで解放へと向かうハッピーエンドは初めて。
独特の世界観であったり、性に奔放なベラの人間性だったり、勿論異色さも十分感じるのだが少々毒が足りないようにも。
これはこれで良いが、今までのヨルゴス・ランティモスを期待して行った身としては少し複雑な部分があった。

とはいえ、相変わらずセンスの光りまくる映像には驚嘆させられたし、ストーリーもかなり面白く、好きだと大きな声で言いたくなるような映画だ。
手術を受け、全く新たな人間として生まれ変わったベラ。
世の中を学び、性に目覚め、世界に出て、色を見る。
そして永き旅を経た彼女は、人を知って、自分を知る。まだまだ彼女の旅はこれからも続いていくだろう。
人間は哀れな生き物だ。
欲のままに行動して失敗し、それを繰り返す。
だがそれは同時に、探求し続けることのできる生き物だということ。
知的好奇心の塊である我々は確かに“哀れなるものたち”なのかもしれないが、全く新たな世界へ踏み出せる力を持っている。そうやって人類は今日まで繁栄してきたのである。
今作はそんな監督なりの人生讃歌、人間讃歌のようにも感じられた。

新感覚のフェミニズム映画とも言えるだろう。
男を下劣な存在とただ貶すのではなく、男女の性を分けて描きつつも性別に縛られずに女性が勝利を掴み取る物語として描き切っているのがとても好感。
過激なシーンも難なくこなしたエマ・ストーンがプロデューサーとして作品に大きく関わっているのもまさに象徴的だ。
前作でヌードを自ら提案したエピソードも好きだが、今回もより攻めの姿勢が伝わり、女性としての芯の強さを感じてかなり好きになってしまった。

人体改造という倫理的に難しいテーマでありながら、珍しくかなりソフトに仕上げてある。
ゴッドの一連の行動は正しかったか?という点は一概には言えないが、否定したくないどころかそこに愛を感じられた。
前夫のアルフィー以外、みんな人間味に溢れていてなんだかんだ愛すべきキャラクターたちなのだ。
笑えるシーンが多かったのも印象的。
特に「3つのことだけ言うんだ」のシーン、恒例のヘンテコダンスのシーン、娼館でのおかしな客たちとのやり取りは声出して笑ってしまった。
ラストシーンのカタルシスも最高だった。

今年のアカデミー賞では11部門にノミネート!
頼むから何かしら獲ってくれ。
今年のオスカーイチオシです。

ヨルゴス・ランティモス監督作暫定ランキング
1.籠の中の乙女
2.聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア
3.ロブスター
4.哀れなるものたち
5.女王陛下のお気に入り