ロックウェルアイズ

コンクリート・ユートピアのロックウェルアイズのレビュー・感想・評価

コンクリート・ユートピア(2021年製作の映画)
4.7
突然の大規模な地盤隆起によりソウルの街は壊滅状態に陥る。
ほとんどの建物が全壊した中で唯一崩壊しなかったマンション、それがファングンアパート。
周辺から多くの人が避難してくるが、同時に不法侵入、殺人未遂、放火などの事件も頻発するようになる。
部外者を脅威と感じ始めたマンションの居住者たちは、住民だけのルールを作って居住者以外を追い出していくことに。
そんな「住民たちのためのユートピア」の代表に選ばれたのは902号室の冴えない男、ヨンタクであった。

2024年劇場鑑賞1本目からえっぐいの来た。
もうこれ、既に今年ベストでは?
格差、閉鎖的コミュニティ、胸糞展開、アクション、殺人、グロ、美男美女、純愛、演技、セット、演出、映像美、ブラックジョーク……etc
韓国映画で観たいものが全て詰まっている。
確かに公開はタイミング的に最悪ではあった。
考えないようにしても元旦のことが少し頭を過ぎる。
ただ、あくまでもエンタメだ。そして映画だ。
大災害はいつ起きるか分からない。
それと同時にこういったことが起きないとも言い切れない。
実際に自分が住人だったらどうだったろう。
恐らく同じように集団心理に飲まれていたと思う。
私はこの映画を思いきり評価したい。

予想を遥かに超えてくる作り込まれた作品。
純粋に映画としての完成度が高すぎる。
ラストでミョンファが言っているようにアパートの住人たちは至って普通の人間だった。
しかし、いざ異常事態が発生した時、目に見えない“流れ”が発生した時、我々はどう行動できるだろうか。
日常が狂気へと変貌していく様がとても丁寧に描かれており、グイグイとこの世界観へ引き込まれていった。
0がマイナスになる。
最近どこかで聞いたキャッチコピーにも似ているがまさにそんな感じで、動き出したら止まらない負の連鎖に観ているのがキツくなる。
もうやめてくれと思っても、一度流れ出した濁流は留まることを知らない。
この時点でかなり好みの映画だ。

ヒトコワ系だけではないヒューマンドラマも魅力的。
中盤まではかなり精神的にキツかったが、後半作り上げられた負のユートピアが音を立てて崩れていく様、そしてその嵐の後の静けさはまた違った雰囲気となる。
設定だけではワンシチュエーションな展開にも思えるが、かなり色々な要素が詰め込まれており、最後の展開は個人的に涙を流しながらガッツポーズするほどの激アツ展開。
後述するけど、ヒロインが天使すぎるって。
教会のシーンとか完璧すぎる。
「正直詰め込みすぎて何が伝えたいのか分からない」みたいなことを書いてる人もいた。それもめちゃくちゃ分かる。
でもね、私はこの作品が好きだよ。

韓国の格差問題が映画になることはしばしば。
本作でも、近隣のドリームパレスというファングンアパートよりもランクの高いアパートの住人たちが助けを求めてやってくるが追い出される。
この格差の逆転、もしくは交差というもので思い出されるのが『パラサイト 半地下の家族』。
キャッチコピーでも「パラサイトに続く傑作」とあったが、個人的には結構納得だ。
韓国社会と日本社会において、決定的に違うところと言えば兵役の有無であろう。
パンフレットに銃に関する解説があった。
一般市民でも許可を得て所持は出来るが、使用しない場合は警察署に預けなければならない。
韓国の男性は兵役時に使い方を習うためある程度使いこなせると言う。
これは本当にキーワード程度の豆知識だが、韓国社会に強く結びついている兵役制度は、本作においてもかなり重要なポイントかもしれない。

技術面や細かな演出も素晴らしかった。
アパートや捜索に行った街の一部はセットらしい。
襲撃時にアパートに散っていく住民たちはまさにゴキブリだし、ミョンファとへウォンがグチャグチャの遺体を見つけたシーンの対比としてミンソンが傷一つないホールケーキを見つけるのもなかなか面白い。
作品の細部に監督やスタッフのこだわりが感じられた。

そして、やはりキャストの質の高さ。
主演のイ・ビョンホンは昔の面影などまるでない(もちろんいい意味で)。
若い頃よりも今の愛すべきおっさんって感じの方が好きだな。指ハートと歌声が聴けます。ファン必見。
その主演を喰って完全に優勝されていたのがミョンファ役のパク・ボヨン。
住民たちが壊れていく中で1人冷静さを保ち住民の看護にあたるミョンファはまさに白衣の天使。
夫婦が別れてしまう最悪の方向も考えたが、最後まで愛を忘れないでいてくれてありがとう。
パク・ソジュン演じるミンソンとお似合いすぎて、別世界なり前日譚なりでまた2人が観たいくらい、この夫婦が好きになった。

昨年の『別れる決心』のこと然り、年始の韓国映画は最強かもしれない。
終映ギリギリだったが映画館で観れてよかった。
으라차차 황궁!! 가자 파이팅!!