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哀れなるものたちのギルドのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
3.7
【圧力による自己決定の難しさと圧力の破壊】
■あらすじ
天才外科医によって蘇った若き女性ベラは、未知なる世界を知るため、大陸横断の冒険に出る。時代の偏見から解き放たれ、平等と解放を知ったベラは驚くべき成長を遂げる。
天才監督ヨルゴス・ランティモス&エマ・ストーンほか、超豪華キャストが未体験の驚きで世界を満たす最新作。

■みどころ
ロブスター、聖なる鹿殺し、女王陛下のお気に入りに続くヨルゴス・ランティモス監督の最新作。
1992年に発表されたアラスター・グレイの「Poor Things」を原作にした映画で、ベラの新生化して得た好奇心から世界を旅していき、様々な気づきを得る話である。
これまでの作品と違ってユニバーサル・モンスターズのフランケンシュタインのベースに純粋無垢なベラの目線で人間社会、世界の歴史にアクセスする話に昇華している。

人間社会特有のしがらみ、暴力性というのを世界を旅する事で体験し、純粋無垢である事を武器に自己認識、自己決定をしていき「自由」「やりたい事」を勝ち取る力強さが魅力的な映画でした。
ヨルゴス・ランティモス監督といえば「ロブスター」「聖なる鹿殺し」における神的な試練・ルールを課す超常性、人間模様を排除したドライさ、「女王陛下のお気に入り」における世界観の再現と意図的なずらし(例.言い回しとか)、魚眼レンズ・BGMの不穏さ…といった
「独自のルール設定」
「不気味さ」
「ドライさ」
…が魅力的な監督だと思う。

本作は過去作の作家性を感じさせるテイストはあれども、人間模様に熱情みがあったり自らに課せられた使命(被験体としてデータを取られる、モルモットとしての搾取される側)に抗う…とかなり変わった作家性を提示している。
それによって「神の試練」の前に人間が人間たる部分が崩落するデスゲーム要素を破壊して自己認識・自己決定に重きを置く前向きな作品になっているのは興味深かったです。
他にも本作は過去のホラー映画からの引用が多いキメラ映画な印象がある。
フランケンシュタインと回転を連想するシーンを感じて、その映画から逆説的に"人間の怖さ"、怖さへ対峙する映画に昇華しててそういったところも面白かった。

本作はこれまでの作品と違ってエモーショナルあって自由・やりたい事を獲得・継承する映画に仕上がって、そういった新鮮味やエマ・ストーンの前作「女王陛下のお気に入り」オリヴィア・コールマンに迫る怪演っぷりは良かった。

けれども、そういった本作の旅をする・体験を経て自己認識・自己決定を獲得するテーマ故に良く言えば小綺麗、悪く言えばランティモス作品の牙が抜け落ちた感が否めなくてそこまでハマらず。
個人的には神の試練的な「ルール設定」、カルマを課す事で良い意味で人間の不気味さ・先の読めなさ・ディテールの気持ち悪さ・居心地の悪さを示した「ロブスター」「聖なる鹿殺し」が好きなのもある。
そういった好みもあるし、その好みを抜きにしても話が散漫していて映画が示すメッセージ性、エマ・ストーンの演技の凄みしか良さを感じ取れなかったです。

新たな新天地を明示した新鮮さは良い体験が出来たので、まだ観ていない人は独自の世界観を堪能する意味でもオススメしたい作品です。
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