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哀れなるものたちのLATESHOWのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.0
奇妙奇天烈な映像、美術、衣装、
そして音楽が際立って素晴らしい。
入水した母の肉体で復活した幼児ベラの
大きな瞳に映る美醜の世界は
どこか作り物のようだが
蛙を潰せばちゃんと死ぬし
死体を突っつけばちゃんと抉れる。

ベラは、
ピノコであり、奇子であり、アトムのようでもあり。
フランケンシュタインの怪物や
メトロポリスのマリア、A.I.のディビット、
あるいは
「奇跡の人」ヘレン・ケラー、
「ブリグスビー・ベア」「悪い子バビー」
のようでもある。
作られた存在という点では
様々なキャラクターを彷彿させる。
強いて言うなら
ブラックジャックから自立したピノコっぽい。

だが、ベラであるのだ。
ただ、ベラで在るのだ。

定めなき世の定めに縛られず
全ての観念を振り切って
作り物のような狭い世界を渡り歩く。
知性も欲求も貪欲に成長していく。
男も女も気付かなかった視点で物事を見つめる。

熱烈ジャンプ、エッグタルト、ミュージック!
オルガズムとゲロに生の実感を覚えながら
知見を得、広大な思索と共に深い智慧に辿り着き
生きる悲しみもまた誰に教わるでもなく学ぶ。

社交ダンスは本能任せに踊る。
不味けりゃマズいと口にするし
悲しければ助けたくてお金をありったけ渡す。
お金がないなら好きなセックスで儲ける。
同時に学びたくて大学も行く。
つまらん大人、ちいせえ男の善悪正誤からすれば
理解不能なようでも
人としては極端に健全なのである。

全く、ちいせえ男の一人からすれば
ベラを寝とり放蕩の旅へ共に出るダンカンが
ぼろぼろ露呈させる情けなさはなかなかに辛い。
こうはなりたくないけど、自分の中にだって
きっとある情けない部分を見透かされる。
男性社会内で不埒を気取り
いくら悪徳を自慢したところで
女性が思い通りになる訳がない。
一丁前に高いプライドがあるから
自分が恥をかいたことに怒り喚き
別れても帰らずしつこく付き纏い
リベンジポルノまがいな密告をする...
読書の喜びを知ったベラから不要とばかりに
本を取り上げ海へ投げ捨てても
(今もまだ世界中で見られる光景だろう)
かつて「爆発」的人生を送ったであろう老婦人
(ハンナ・シグラ!)
が微笑んでまたベラに本を渡す時に
ダンカンの癇癪起こすみっともなさ。
女性同士が紡ぐ知の連帯に太刀打ち出来ない薄っぺらさ。
幼児のベラより子供っぽくて情けない。
いや、彼のみならず
ウィレム・デフォー扮するマッドサイエンティストも、誠実が故にベラの言動に困惑するしかない婚約者も、乱暴なセックスばかり望む娼館の常連達も、最後に登場するある軍人も
ベラの人生とセクシュアリティを
制御し操作しようとする情けない欲求を
無自覚に背負っているのだ。
性懲りも無くベラ2号は作るし
なんで女側は相手選んじゃいけないの?と
問われて何も言えなくなるし
銃をちらつかせれば言うこと聞くと
思い込んでる始末だし。

ベラは白痴の美女にしか見えない哀れなるものか。
生涯を座敷牢で過ごすしかない存在か。
どうやら人生は短く、そして世界は狭いと
ベラは知らず知らず屋敷の屋根から
眺めている内に自ら学んだのだ。
魚眼レンズで覗く狭い世界を渡り歩いて
恐るべき「個」と進化したのだ。
だが学ぶということは、彼女を欲し側に置きたい者からすれば厄介なものである。
変な知恵つけて自分が好きな彼女の魅力を損なわれては困るし、何より彼女を傷つけたくない。
世界は残酷なんだからいつまでも変わらずここにいてよ、と男は望む。自覚なく男ってのは望む。
年端の行かないアイドルに清純は望む癖に
業界の異常なしきたりからは目を逸らすように。
やがて成長したベラと対話すると
哀れなるものはいったい誰なのか露わとなる。

でもまあ、やっぱりベラだって
哀れなるものたちの一人だ。
聖俗の出来損ないで残酷な振る舞いもする。
我々人類は共に在る以上
所詮ちいせえ幼稚な存在だ。
けれども部屋を飛び出し、学び、悟る力が
まだあるだけマシだろう。
この自分に似て紛い物のような
短い人生と狭い世界が
それでもなお美しいと認識出来る力が
まだあるだけマシだろう。
どのよう経緯があっても
自分の肉体はやはり自分だけのものであるし
クソマズい精液飲まされるより
エッグタルト爆喰いしてゲロ吐く方が
よっぽど生きてるって言えるだろう。

ベラは、唯ベラで在るのだ。
既にこの世が提示する答えに疑問を抱き
自分自身で探究する肉体を得た
好奇心旺盛なる幼児は
存在そのものが人間讃歌だ。
この肉体すべて使い切りたくて成長していく。
この欲望を思考へと変えてみたくて成長していく。
揺るぎない「個」となり生きていく。
それはちっぽけで哀れなる私達に隠れている、
混沌を生き抜く為の力だ。
あなたの中にもきっとある、
唯一のあなたで在れるエネルギー。

哀れなるものたちよ、
生まれたからには生きてやれ。
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