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青春弑恋/テロライザーズのLATESHOWのレビュー・感想・評価

青春弑恋/テロライザーズ(2021年製作の映画)
3.7
旧知の男女が再会し、
やがて恋仲となり独立への夢を見るも
台北駅で突然起きた無差別殺傷事件に巻き込まれる、
という全体の大まかな第一の視点から
無関係の筈である6人の男女それぞれの視点を通して
惨劇に至る経緯を語る、冷凍都市のすれ違い群像劇。
恋と執着、妄想、不安、後悔が
見ないフリしてた空っぽの部屋でムクムク膨れ上がる。

長い船旅から帰ってきた青年は、
世界を自分の目で見てきたからか
誠実で信用のおける人物である。
彼の会話は肝心な時に着信音や都市のノイズに遮られる。
他の登場人物達は現実に傷付くのを怯え、
あるいは回避すべく
ヘッドホンやVRゴーグルを装着し
コスプレやポルノに浸る。
英題タイトルを始め強く意識している
エドワード・ヤン「恐怖分子」は
薄い被膜のよう風に揺らめくカーテンが印象的だった。
この映画もまた空っぽの部屋に不穏な予兆が漂うが、
現実を遮断するかのようなカーテンはなく
代わりにVRゴーグルが妄想に耽る身勝手な若者の視界を遮る。
経済的事情とはいえデジタルタトゥーとなり
未来への足枷となることに苦しむ元ポルノ女優。
この先どこへ逃れようと一生ついて回る過去に
泣く彼女をつけ回し屈折した恋心を抱く若者は
人を真正面から見れない。見ていない。
自分を捨てた母親代わりに、
妙齢の風俗マッサージ師との会話にのみ
若者は安らぎを見出す。
その若者に恋する10代の子は、
性への恐れをひた隠してコスプレし
空っぽの部屋で小悪魔ぽく振る舞う。

鋭いささくれが突き刺さったまんま
ずっと漂流してる街の中。
誰にも言えない、知られちゃいけない秘密隠して
社会の窓が開きっぱなしな空っぽの部屋で交錯する男女達。
当然の拒絶、突然の殺意、漠然の繋がり、唖然の接触。
欠落したままの関係性、望まぬ露出と選んだ閉鎖に混乱し
境界線は乱れっぱなし。
ノイズとバーチャルに埋没しながらも
甘い関係性に飢えている。
今度は貴方の声をしっかり聞こうと
真っ直ぐ向き合った途端、電車の騒音に掻き消される。

身勝手な若者が成り行きで人を助ける場面がある。
救いとは決してならないが、
クソみたいなストーカーが身を挺して庇った理由は何故なのか。
風俗マッサージ師は朝の窓辺に無言のまま何を思ったのか。
秘密だらけなのは世の常だ。
こじらせたからにはなかなかほどけない。
正常な関係性なんてむしろあるのか最早分からない。
もしかして築けたのかなと今になって薄ら気付けたのかな。
でもあまりにうるさすぎたんだよな。

空っぽの部屋で刀振り回しながら人と繋がりたくて、
ヘッドホンしながら恋人と手を繋ぐ。
コミュニケーション機能不全、それでも混線して繋がるこの
曖昧な関係。
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