むぎちゃ

哀れなるものたちのむぎちゃのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.4
美しい痴人とかいうパワーワード
愛しのクリトリスとかいうパワーワード
さり気ない貞操帯


「聖なる鹿殺し」と「女王陛下のお気に入り」しか観ていないが、ほんっとにこの監督はいいツボを突いてくれる。
特に「聖なる鹿殺し」が大好きなので勝手におどろおどろしい作風を期待していたが、まさかのほっこりコメディだった。

当日目の前にいらっしゃった観客が英語圏の方々だったもので上映中笑い屋よろしくナイスリアクションしてくれてて、私含め周りも自然に笑ってしまっていた。サンキュー異邦人。

しかしかなり摩訶不思議な世界観ではあったな。中世(この表現嫌なんだけど)のようだけど電力が行き届いていたりロープウェイなんかがあったり。変な機構の船があったり。
外の世界の嘘くさい空模様や街並みもその奇天烈なファンタジー感を後押ししてくれている。

で、またその景色がどれも絵画のように美しいんだこれが。
エンドロール(?)の背景もただの壁のシミだったり金具のアップだったりなのだが、不思議と一枚絵としてすごく美しかった。貞操帯すら美しかった。

劇伴も印象的。不安定で不愉快さを伴うようで、キャラクターの都度の感情を分かりやすく表現してる。あのへんてこりんな世界観を更に押し上げる演出の一つは間違いなくこれらの伴奏。

セリフも一つ一つが練って作られている印象。ユーモアがあり悲哀があった。
不謹慎で下劣な言葉が行き交うのに不快感を抱かなかったのは、多分良い意味で観客を突き放すような遠い非現実的な世界観故にそれらのセリフすらも現実味がなかったからかも。


それにしても灰色の世界から解き放たれて世界が色付くタイミングが大セックスとは。
根源的な欲求以外を求め出すまではま~セックス祭りよ。
明らかに意図的な演出なのでその辺汲むと、ベラの身体は快楽を受け止められる大人状態でありつつ、頭は快楽を純粋に貪る子ども状態。あくまで当然の成り行きかもしれない。男は頭ん中ちんぽなのでやはり当然の成り行きかもしれない。はい。


多分どのレビューも触れているだろうけど、とにかくエマ・ストーンの演技がエグい。
家を出るまでと帰郷した後のビフォーアフターっぷりね。歩き方話し方凛とした表情、全てが大人に変化している。

最初はゴッドの容姿からフランケンシュタインを連想していたが、彼女はフランケンシュタインではなくゴーレムなんだな。
ゴーレムの額には(綴り忘れたけど)「真理」の文字が刻まれていて、それをエネルギーに稼働しているらしい。
ベラは世界を己を、まさしく真理を探求して成長した。その結果があの姿なんだ。(後半の黒衣装最高にツボです本当にありがとうごさいました)


後を追うように医者の道を歩み出すベラと優しくアドバイスをするゴッド。
この姿に恐れや哀れみを見せなかったのはお前だけだと優しくキスをする最期、ゲップシャボンを飛ばす以外はいい父ちゃんだったな。

で、凄く気になる点が一つ。
タイトルの「POOR THINGS」が多分作中三回表示されてたと思う。
ド頭と、エンドロール後と、もう一つはエンドロール前。
最初と最後の二回でもう充分のはずなのだが、エンドロールという短いスパンを挟んでまたタイトル?何か変よね。

二回目の背景は本編ラストカットの悪趣味全開のお庭。あそこには彼女を取り巻く主要人物が揃っていた。
ゴーレム、そのゴーレムを愛する男、ようやくハンマーを手放した幼児成人女性、主を失いその幼児成人女性の面倒を見るメイド、鶏豚に豚鶏、そして全裸羊男。
⋯いや、よくよく考えたらこいつら全員哀れなるものたちじゃねぇか!
まぁ半分冗談にしても明らかに意図的よね
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