むぎちゃ

オッペンハイマーのむぎちゃのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.5
様々な感情・感想が溢れる映画だったが、まず言えるのはこの規模の映画で、尚且つ「次作を最も期待される監督」ことクリストファー・ノーラン作品において、このテーマをこの描き方でやりきったことは殊更大きかったと思う。

マーケティング路線として全世界配給の予定だったにしろ、アメリカ産アメリカ資本(だよね?)の映画でここまで描いてくれれば充分やってくれたと言っていいのでは。
時系列的に最後にはオッペンハイマーに救いがあったにせよ。


「物理学300年の集大成が大量破壊兵器でいいのか?」
プロメテウスにならんとするオッペンハイマーに対しての、物凄い核心を突く問いかけ。
トリニティ計画が成功した時、軍人も科学者もみな喜んでいたが、恐らく科学者たちが喜んだのは軍事でも政治でもなく科学者としての矜恃が大半を占めていたのでは。

そのトリニティ計画の爆破シーン。
そもそも私は戦争に対してとか、敗戦国の一国民としてみたいな思考は希薄なタイプだと自覚していたのだが、燃える炎を観て勝手に涙が止まらなくなってしまった。
一映画のカタルシス故なのか、これが本国に投下されたのかと余りの恐ろしさを感じた故なのか。泣いた理由は未だに分からないが、手は終始震えていた。
涙脆い方ではあるがこの感覚は初めてすぎて困惑したな⋯。

なるべく冷静に鑑みると、極限の緊張感を映像でも音楽でも完璧に煽った凄まじいシークエンスで、ひとたびボタンを押せば世界が永遠に変わると言うその一瞬が、無音の爆炎に呑み込まれるようだった⋯この演出にまんまとやられたんだろうか笑

実験が成功と分かるやさっさとお払い箱になったオッペンハイマー。
その後はノーランの手練技がさらに炸裂。
元々先述のように、待ち望んだノーラン作品だからと鑑賞したものの、鑑賞直前まで「史実を描くにしてもダンケルクとは違い舞台は戦場では無いのだから結構地味めなのか?」と思っていたが⋯まさかのノーランお得意の時系列を操るサスペンスへと一転とは。
映画的なピークは過ぎたにせよ、見応えは最後まで全くダレないのは本当に凄い。
そうかこの人にはその手があったかと膝を叩く思いだった。


原爆投下やオッペンハイマー自身の顛末に関しては「色んな」配慮を感じつつ、それでも核拡散を憂い水爆の開発には反対の意を示し、そしてアインシュタインに語った最後のセリフを以て、この作品の位置づけは明確に感じられた。
メディアの記事に目を通した程度の知識で大変恐縮だが、各大手の配給会社は今回の対応を失策だと認識してもらいたい。
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