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さよなら ほやマンのおむぼのレビュー・感想・評価

さよなら ほやマン(2023年製作の映画)
3.7
 多くの人が体験した東日本大震災が植え付けたものを極めて個人的問題にうまく繋げていた。
溢れる創作意欲の刺激と思春期に遭遇して自己を失わせることになったトラウマを根源とした対自がこの映画の大きな要素で、未熟で熱いアティテュードが良かった。

 それこそ、映画をかじり始めた学生の自主制作を思い出すようなナンセンスな表現のツボを押さえて活かしていたように感じた。
冒頭の手作りヒーロービデオのあやしいノスタルジー、終盤暴れ回るジャズの回しの劇伴にのせて実写の主人公がアニメーションで波の中へのトリップという異質な映像によるフックは狙っていることがビシビシ伝わってくるうえで好みだった。

 思春期にトラウマを抱えて自分を見失って仕事も上手くできないのに家族を守ることが自らの存在価値のほや漁師の主人公をMOROHAのアフロ氏が演じていて、猛烈にしっくりくる。
特に思い出の写真を焼いて捨てる自棄の直情的な表現を見てそう思った。

 劇中のYouTubeのバズりとまとめサイトの炎上のように、成功はまったく現実味が無い稚拙さで失敗は露悪的な民衆によるものすごく現実味がある描かれ方なことも印象に残っている。
映画の性格がわかるというか、何が重要なのか説得力があるように感じる。
でも考えてみたら、バズるって冗談みたいなきっかけで起きたりするのも実際よくあることか。

 エピローグはベタなマジックリアリズムだけど、陳腐なラブコメを裏切る唯一の方法で良かったと思う。
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