カツマ

見えざる手のある風景のカツマのレビュー・感想・評価

見えざる手のある風景(2023年製作の映画)
4.3
いつの間にか変わってしまった。世界も生活も、人類の価値そのものさえも。突然、宇宙人がやってきて、あなた達に必要なものをあげましょうと大手を振って搾取する。だが、これらはどこかで見たことのある風景だ。悲しくなるほどに、この映画で描かれたのは人類の歴史そのものであった。この映画はリバーシブル。裏側にはベッタリと風刺の模様が刻まれていた。

今作はブラッド・ピットが設立に関わっている映画製作会社プランBが製作した風変わりなSF映画である。日本では劇場公開はされず、配信スルーに。Amazonプライムでひっそりと配信されているが、内容は相当に頓狂で、スパイスが効き過ぎた風刺映画としても機能している。宇宙人に支配された生活の中で、二つの家族に飛び込んできた災厄のような出来事とは?何とも不思議かつ不可思議な余韻を残してくる作品だ。

〜あらすじ〜

2030年代、人類にとって大きな変化が訪れていた。人類は空から来襲した宇宙人の受け入れを決定し、手を取り合って生きていくという選択をする。だが、そんな友好的な期間も長くは続かず、たったの5年で人類は宇宙人の支配下に置かれ、一部の富裕層を除いたほとんど全ての人類が貧しい生活を強いられることとなった。
家を失う家庭も多い中で、高校生のアダムは母と妹と共に比較的大きな家に住むことができていた。とはいえ、貧しい生活なのは変わりはなく、ブロック体の食事は非常に質素なものだった。アダムは絵を描くのが趣味で、家の中には彼の作品が飾られている。その中には父が出ていく前の幸せな家族4人の肖像もあった。
そんなある日、アダムはクラスの転校生クロエと仲良くなり、彼女たち一家がホームレスとなっていることを知る。そこでアダムはクロエの家族を居候させることを提案、その日の夜にもアダムの家族とクロエの家族は一つ屋根の下で晩御飯を食べることになり・・。

〜見どころと感想〜

この映画の設定を俯瞰してみると、一目瞭然、かなり分かりやすい風刺が展開されている。例えば、黒人家庭の家の地下に白人家庭が住む、という構図。また例えば、一部の富裕層が決定したことで、多くの人間が貧しくなる、という構図。更には配信によってお金を得るという表現。それら全てが現代の縮図であり、現代社会を痛烈に揶揄している。宇宙人がかつての『男性が働き、女性が家を守る』という家庭環境を理想的だと断言するシーンも意味深で、それに真っ向からノーを突き付けるアダムの母はあまりにも力強いメッセンジャーだった。

主演のアサンテ・ブラックはドラマ『僕らを見る目』や『This Is Us』などへの出演はあるが、目立った映画出演はなく、今作の主演は大抜擢だったと言えるだろう。対して共演のカイリー・ロジャーズは、子役からキャリアをスタートさせているため、数多くのドラマ、映画への出演経験を持っており、映画では『SKIN』や『スペースステーション76』などに出演している。また、強き母を演じたティファニー・ハディッシュは、最近では『ホーンテッド・マンション』などに出演、他には『リアリティ』のジョシュ・ハミルトンなども出演している。

今作では序盤から主人公が描く絵画が登場してくる。実はこの絵画、なかなかよく描けており、個人的には好みな作品が多かった。クライマックスの展開とそこから連なるラストも良くて、希望を持たせてくれるラストカットが実に優しくて好みであった。そして、あのおかしな造形の宇宙人の手の動きがどうにも忘れられない。宇宙人の言語を覚えろって言われても、うん、確かに無理だよねぇ、、。

〜あとがき〜

風変わりなSF映画という触れ込みでしたが、予想以上に変な映画でした。なので、好き嫌いかなり分かれる作品かと思いますが、自分はこういう映画が好きなので高得点を付けています。

とにかく風刺まみれな映画で、元々、SF映画は風刺映画の側面があるため、SF映画らしいSF映画と言えるのではないでしょうか。結構ネタにはなると思うので、好き嫌いはともかく観てみてほしい一本でした。
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