余程期待値が高かったり待ちわびたシリーズ最新作とかでもない限り、俺は結構事前知識ゼロで新作映画を観ることが多くて、この『ドライブアウェイ・ドールズ』かのコーエン兄弟の片割れであるイーサン・コーエンの新作としか知らずに観たのだが、それが功を奏した面はあるかもしれない。映画に限らず漫画や音楽なんかでもよくあることだが、共作することによって1+1が3にも4にも、ときには5や6にまで跳ね上がるような事例があると思う。それでいくと多分コーエン兄弟も二人でやった方がいい作品が作れるんだろうなぁというのを本作で思いましたね。
そういう出だしで書くとまるでこのイーサンのソロ作品である『ドライブアウェイ・ドールズ』がイマイチだったかのように思われるかもしれないが、まぁぶっちゃけそんなに面白くはなかったよ。そんなに面白くはなかったんだけど、好きは好きだしこれは非常に逆説的な感じがしてしまうが、本作は大して面白いもんでもない、ということが作品の良さの大半を占めるような映画だったのだと思うのだ。ま、端的に言うとB級映画的な面白さって感じですかね。
お話は1999年が舞台でイケイケで性に奔放なレズと真面目で堅物なレズの二人が主人公。彼女らは真面目レズの田舎に小旅行的な感じで出かけるのだが、その際に使ったレンタカー(何かアメリカ特有の車の貸し出しサービス的なものらしいがよくわからんかった)の荷台にギャングのヤバイブツが乗っていたということで騒動に巻き込まれる…というお話です。
ま、ジャンルとしてはコメディ増し増しのクライムサスペンスって感じですかね。まさにコーエン兄弟の得意分野じゃないか! という感じなんだけど、上でも書いたようにそこまで面白いものでもなかった。というのもこの映画はなんかコメディ部分は上滑りしてる感じだし犯罪サスペンス部分も全然緊迫感がなくてどこが見どころなんだよって感じなんですよね。過去のコーエン兄弟作品ならそのどちらかは必ず一定以上の水準を保っていたのだが本作は何か煮え切らない展開が続く。笑える部分もあるのだが苦笑だったり若干すべり芸的な感じが出てたりで素直に面白い! って感じではないんですよね。
ただその中でも一つだけ抜けてる部分があって、それが最初に書いたように映画の内容一切知らずに観たから意表を突かれて面白かったという部分で、あらすじでもサラッと書いたようにこの映画はレズ映画なんですよね。そこ本当に知らなかったから意外で良かったな。百合ではなくレズですな。それも諸星あたるのレズ版というくらいには性欲に汚いレズ。もうなんか冒頭から奔放な方のレズはレズバー的な店に行って女を食い散らかしてるような描写から始まるんですよ。
これは多分1999年という設定になっていることとは無関係ではないように思う。てかそこ以外に1999年になってる意味はないだろう。というのもですね、本作で描かれる同性愛の性愛描写というのは社会から抑圧された中で健気にプラトニックに愛を育むといったようなものでは全くなくて、快楽優先で即物的なすげぇオープンでバカっぽい感じなんですよ。レズバーで出会った同好の士とワンナイトなラブを楽しむというくらいならまだ分かるけど、なんか主人公たちの旅の途中でたまたまダイナー的な場所で出会った高校生くらいの女子サッカーチームと大乱交パーティーとかしちゃうからね。諸星あたるのようなと書いたが、本当に主人公の片割れの奔放レズの方がもう女と見るや手を出すような奴なんですよ。それが1999年であるというのが重要ということに繋がるんだけど、今現在(2024年)における同性愛という属性が付与される(望む望まないに関わらず)ような政治性は全くないんですよ。ポリティカルさも正しさもなく、ただ欲望としての性愛がある。もちろん言うまでもないことなのだが同性愛者は全員が性欲旺盛で誰にでもモーションをかけるというようなことはないので、本作の諸星あたる的主人公の方も最終的には性愛の楽しさを受け入れる真面目レズの方も古臭いステレオタイプ的な同性愛者として描かれていると言えなくもないのだが、個人的にはそれが現代的な規範が優先されるようになった性愛、そこに関しては異性愛でも同性愛でも変わらない草食化した恋愛観にカウンターを入れてるような感じはしてその部分は面白かったですね。
あと主演の二人はどちらも良かったな。全体的に演出はすべってる感じだったけどかなり主演の二人に助けられてると思う。お話自体はそんな盛り上がらなかったが笑いながら緩く観れるレズ映画というのは中々新鮮味があってよかったですね。ていうか社会に弾圧されたり自分が異常なんじゃないかと悩みながら生きてる同性愛者映画もそりゃ必要ではあるだろうけど、これくらいバカなノリのやつもあっていいというか無きゃダメでしょと思いますよ。
まぁ何度も言うが映画自体はそこまで面白くはなかったけど個人的には好きですね。