囁きのwhisper

月の囁きのwhisperのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
3.4
題材になってる相模原の事件は個人的に結構関心があって、この映画自体も一部で批判が噴出してる噂も聞いたので、滑り込みで鑑賞。

確かに、まだ事件からそこまで年月も経っておらず、世間の記憶にもちゃんと残っている中でこの題材を映画化しようとした気概は感じる。
ただ、正直これでも“逃げ”を感じてしまう部分は多かった。

というのも、相模原事件で最もセンセーショナルだったのは、考え方によっては植松聖の主張に同調してしまうような、一般大衆の持つ危うさが明るみになったことだと思う。
意思疎通のできない重度障害者は殺処分するべきだ、という思想はあまりに優生思想的ではあるが、実際に施設で働く人々の過酷な実態や、精神障害を理由に減刑される犯罪者への疑問の声なども多く上がっており、単純に悪と断罪することもできないような風潮になっていたように記憶している。

ただ実際にこの映画はどうだったかというと、職員が噛みつかれたことを示唆するようなセリフなどはあったものの、基本的に描かれるのは施設職員による入居者への加害と杜撰な管理体制がメイン。特に後半出てくる、入ることを禁じられ、糞尿まみれで放置された重度障害者の部屋なんかは流石に飛躍しすぎだと思う(あれが実態なんです!ってことなのであれば、それはそれで大問題だと思うし)

これでは、凶行に至ったさとくんの思想も、単に現実の植松聖の思想を表面上なぞっているだけで、1本の映画として説得力のあるキャラクターになっていないと感じた。

例えば、こちらも実際の凶悪事件を題材にした黒沢清の「クリーピー」のように、鉄の扉を開いて異界に突入するような暗黒ファンタジーに振り切るなら、あの部屋もまた意味を持つ気がするけどそういうわけでもないし、これでは実態を知る人々からの怒りが噴出するのも無理はない。

その他で言うと、特に中盤までに関してはセリフとか演出がわざとらしすぎてヤバかった。絞首刑の音のくだりとか、いかにもな危うさ感醸しすぎてたし。二階堂ふみのキャラもめっちゃ不自然。
あと細かい点だけど、凶行に使った血塗れの鎌が“月”と重なるのはスラッシャー演出としてオシャレで良かった。

映画化する意義は感じるものの、必要性のない部分のせいで批判されちゃってる残念さはありましたが、観ておいて良かったなとは思います。
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